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きっかけは映画館
第8章 食事
なんてまじまじと彼女を見ていたら、ハッと顔を上げて手を出してくる。
何?和解の握手?
キョトンとしていると、
「名刺入れ、寄越しなさいよ。本当にあなたのなの?」
そこまで疑わなくてもと思いつつ、彼女にとっては疑われても仕方ない出会い方だったなと、ケースをその手のひらに乗せた。
彼女は引ったくるようにして中身を開け、次々に出てくる俺の名刺を見て、
「ヒジオ、ヒジオ、本当に全部ヒジオだ。」
と、腹を抱えて笑っている。
「ヒサオだ。」
俺が言っても、ヒジオと唱えつつ名刺をケースにしまい始めた。
掴みとしては上手くいったが、ずっと彼女にヒジオと呼ばれるのか?しかも頭ん中では肘男…なんだぜ?
ああ、でも可愛いなぁ。
そのコロコロと変わる表情を見て、ヒジオでもいいから、お近づきになりたいと思っていた。
「もうヒジオでいいからさぁ、君の名前は?」
「ははっ…」
ヒジオが名前を聞いてくる。名刺を出されたからといって、出すつもりはない。
ご飯だけ、店を出たらバイバイの男に会社や連絡先など知られたくない。
ああ、逆にヒジオは、名刺を出して連絡先を交換しようって魂胆なんだ。