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きっかけは映画館
第8章 食事
「名刺は持ち合わせていないわ。」
「うん、別にいいよ。名前を教えてくれれば…」
「麻里絵…」
「ん?」
「麻里絵…です。」
「まりえちゃんかぁ。どんな字?」
ああ、名刺を渡さないってことに気を遣って、本名言っちゃった。
ここでバイバイの男に本名なんて言わなくていいのに…
「麻に里に絵画の絵…」
「へえ〜麻里絵ちゃんね、可愛い名前だね。」
別に、どこが?可愛い名前?
何も答えずにいると、
コンコン…
ガラッ…
「お先にお飲み物とお通しですっ…」
粋のいい店員さんが、ビールと魚の南蛮漬けのお通しを置いていく。
「お、旨そうだな。まずは乾杯〜」
肘男は陽気にジョッキを持つが、
「何に乾杯?痴漢されたことに?」
私は毒を吐いた。
「そりゃないよ、麻里絵ちゃん…
じゃあ、とりあえず出会いに乾杯〜」
数時間でバイバイの男に出会いと言われてもと思いつつ、重いジョッキを両手で持って、肘男のジョッキに重ねてから、グイッと一気に飲んだ。