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きっかけは映画館
第39章 おフランス
「麻里絵…大事な話があるんだけど…」
シャワーを浴びてリビングで冷水を飲みながら話を持ち掛けた。
やっぱり逃げるようにしていたらいけない。きちんとしなければ…
「なあに?」
「裕司…今週末で転勤しちゃうんだろう?」
「え…なんでそれを…」
やっぱり麻里絵ちゃんの頭の中にスケジュールは残っていた。
「いや、麻里絵の家に前に行った時にカレンダーを見ちゃって…」
「え…あぁ…」
「連絡するとか、会うとか、見送りにいくとかしなくていいのか?」
「それ、ヒジオが気にすることじゃないでしょ。
いいのよ、最後の電話以降一切連絡取ってないし、たぶん新しい彼女が出来たんだろうし…」
「たぶんって、わからないでしょ。二人は長く付き合ってたんだし。」
「大丈夫、未練とかないし、お互いに新しい恋を見つけようって話したんだし。
大丈夫、本当に終わってるから、
それをヒジオが気にするなんて変だよ。」
「いや、俺に遠慮して言い出せないとか…」
そうじゃない。
たぶん俺が不安なんだろう。
麻里絵ちゃんが不安定になったりするのは、どこかで裕司が忘れられないからじゃないか…とか、考えてしまうんだ。
「ヒジオ、考えすぎ、もう寝よう?」
麻里絵ちゃんは屈託のない笑顔で立ち上がり、俺の手を引いて寝室へ誘導する。
ベッドに潜ってから、俺は麻里絵ちゃんをしっかりと抱き締めて眠ったんだ。
離れないでくれって念じながら…