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きっかけは映画館
第12章 商談
「ぷはぁ〜、やっぱり昨日より断然美味しいお酒ですよね。」
また直帰を許された私達は昨日と同じ店で祝杯を上げていた。
「仮だよ、仮。優希ちゃん、これからが大変なんだからね。」
「わかってますよ〜先輩。
でも立花女史が居なくなってリラックスしてたのに、先輩、後半機嫌悪かったですよね。
私、何かしましたか?」
「いいえ、取引先との話し方に相応しくないところもあったけど、おかげで閃いていい案が浮かんだんだから、問題ないわよ。」
「だったら何で…土方さんとお知り合いでした?」
「知らないわよ、あんなヤツ…」
「…そうですか、すみません。」
ヤツ呼ばわりして、知り合いだと暴露したようなものだと、この時の私は気づかなかった。
ピローン…
【麻里絵ちゃん、今日も飲んでる?
昨日言ってた後輩って、優希ちゃんでしょう?】
【そうですが何か?】
ピローン…
【じゃあお近づきの印に一緒に飲もうよ。】
【まだ、やること沢山あるので失礼します。】
ピローン…
頬に人差し指を立て、小首を傾げてハテナマークに包まれたキャラクターとしょんぼりキャラクターのスタンプ。
それには返さずに電源を落とした。
「先輩…彼氏ですか?」
「違うわよ、昨日と同じ男友達よ。」
「そうですか、でも土方さんて格好いいし、頼り甲斐があって頼もしい方でしたね。」
「そうかしら…」
優希ちゃんは私の不機嫌を察知したのかフェアの話に切り替えてその場をやり過ごした。
ピローン…
【麻里絵ちゃん、何か怒ってる?】
ピローン…
【明日、映画の日だよ?
俺にリベンジさせてよ。】
ピローン…
【もう、邪魔はしないから…】
帰宅した頃合いを見計らってかヒジオからのライン攻撃。
【うざかったらブロックしても、すっぽかしてもいいって話でしたよね。
もう寝ます、おやすみなさい。】
ピローン…
またしょんぼりのスタンプに、
【おやすみなさい】
だけの文字。
はぁあ…何でヒジオに引っ掻き回されなきゃならないのよ。
ヒジオによって商談が進んだ喜びが、ヒジオへのイライラで半減したまま、私は布団を被った。