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明日に架ける橋
第1章 エスケープ
「明日の朝、もう一度この家に来る。弁護士の名前だけ教えて」

花憐はすっかり暗記してしまった弁護士の名前と電話番号を伝えた。
清人は携帯電話にそれを素早く登録した。

屋敷の前まで戻って、もう一度清人に向き合った。

清人は一応承諾してくれたが、明日になったら気が変わってしまうかもしれない・・・。

花憐の心配は顔に現れていたようで、清人は花憐を見て少し困ったように微笑んだ。

「そんな心配そうな顔しないで。君の方こそ、明日になって気が変わったなんて言うなよ」
「そんなことは絶対にありません。私には・・・・もうあなたしかいないのです」

清人は一瞬真摯な眼差しで花憐を見つめた。
花憐の手を取って指にキスする。

「ではまた明日。私はもう今夜は失礼するよ。ゆっくり考えたいからね。おやすみ」
「おやすみなさい・・・・」

清人はもう一度花憐の手にキスすると、屋敷の中に入り克彦に挨拶をして帰っていった。

花憐を誘う男性はまだいたが、もう誰とも話す気になれず、克彦に休ませていただきますと告げて部屋に戻った。

花憐は部屋の電話を借りて、すぐに担当の弁護士に電話を入れた。

大河清人という男から電話がかかってくるかもしれないということ。
彼は自分の結婚相手になるかもしれず、電話がきた時は相続のことを詳しく話してほしいと
いうこと。
また、貴子には連絡をしないで欲しいことを伝えた。

弁護士は驚いていたものの、花憐に事態を詳しく追求するようなことはせず、近い事務所に
来てくださいと言って電話を切った。

花憐はベッドに入ったものの、気分が高揚して眠ることができなかった。

脱走したこと。文子と久しぶりに再会したこと。音楽会でのこと。そして清人とのこと。

清人とキスした唇にそっと触れてみる。

初めて感じた人の体温だった。
思い出すと胸がドキドキと高鳴り、清人の顔が頭から浮かんで消えなかった。

あんな提案をしてしまって、本当に良かったのだろうか・・・。

花憐は今更ながら迷い始め、心の中で葛藤した。

清人がオーケーを出してくれれば、自分には自由が与えられるのだ。
あの家で父と母を想いながら静かに暮らしていけるのだ。

それだけが自分の願いであることに変わりはない。

どうか承諾してくれますように・・・。

花憐はベッドの中で、何度も何度も繰り返し祈ったのだった。
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