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君の瞳に映る白い花【おまけ追加しました】
第3章 揺れる枝葉
悠はあの日を最後に泊り込みの仕事はなくなったようだが、それでもマンションにはほとんど寝に帰るだけで、遅くまで仕事をしているとのことだった。

『キスしたい』
『冬子のおっぱい吸いたい』
『舌突っ込みたい』

と、もっぱら下ネタメールが夜になると送られてくるが、会う約束をしてこないということはやはり忙しいのだろう。冬子は会いたい気持ちを我慢して、下ネタメールには適当に返信していた。

悠にプロポーズされて、一ヶ月が経とうとしていた。
冬子はそろそろちゃんと話がしたいと思っていた。

「冬ちゃん」

土曜の昼間、買い物を終えて部屋に入ろうとした時に、悠の父の忠に声をかけられた。

「おじさん、こんにちは」
「こんにちは。寒いねぇ」

悠の目は父親似だ。くっきりした二重の目。年相応のしわが優しい雰囲気を助長させている。

「冬ちゃん、今日用事ある?」
「いいえ。特に何も」
「申し訳ないんだけど、これ、悠に届けてもらえるかな」

そう言って忠は大きい封筒を差し出した。

「悠が住んでるマンションの契約書なんだけど、持ってきてって言われてね。持っていってやりたいんだけど、ちょっとここのところ忙しくて。すまんけど、悠に渡してくれるかい?今日は出勤しないって言ってたからマンションにいると思うんだけど」
「いいですよ」

このところパートさんがインフルエンザで休む人が続いており、工場はバタバタしているようだった。冬子の母の美代も本来は土曜は休みなのだが、出勤している。

忠はもともともっと太っていた。年と共に痩せてきて、たまに心もとなく見える時があり、冬子はドキリとする。今も目の下に深いクマができて、明らかに疲れて見えた。

忠は悠の祖父が散財したおかげで、幼少期はかなり苦労したとよく話してくれる。
工場を立ち上げて、軌道に乗るまでの苦労話は悠も何度も聞かされているはずだった。

だからこそ悠は、祖父のようにならないようにと、お金に厳しく、容姿だけでなく、あらゆる面で優秀でいようとしていることを冬子は知っていた。
忠が苦労して成長させた工場を潰さないよう、いつか自分が引き継ぐ時が来たら、ちゃんと対応できるようにと思っているのだ。
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