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私の欠けているところ
第1章 『再会』から

「深海さん」


「えっ」


そりゃあ驚くよな
突然名前を呼ばれたんだから

深海さんは
いつものように驚いて振り向き
俺の顔を見るなり
また口元を手で隠した


「すみません、驚かせて」


「あ、ううん」


そう言った深海さんは
俺の予想通り目が潤んでいて
それを誤魔化すように
目をパチパチとさせながら
俺から視線を外した


「どうか…しましたか?」


「え?」


「ちょっと…元気なさそうだから」


「そんなことないよ。
梶谷くんはどうしたの?
もう、帰り?」


泣いてたくせに
何言ってんだよ

さっき
男に金渡して
寂しそうにしてたくせに

俺は
まだ目が乾ききってないのに
無理して笑う深海さんを
猛烈に抱きしめたくなって
こぶしを握りしめた


「はい、近くで営業で
その帰りなんです」


「ご苦労様です」


「ありがとうございます。
深海さんも帰り…ですよね?」


「あ、うん」


やっと目が乾いたのか
深海さんは俺を見上げて
優しく微笑んだ

ねぇ深海さん

どうして泣いてたんですか

なんで
金渡したんですか

寂しくないんですか


「だったら深海さん」


「なに?」


「飯、行きませんか?」


「え?」


「飯、行きましょうよ一緒に。
沖縄屋でもいいし
他の店でもいいです。
今日も暑いしビールとか
飲みたい気分なんですよねー。
あ、焼き鳥なんかもいいですよね。

俺、おごりますから」


戸惑う深海さんをよそに
俺はまくし立てていた


どうしても
深海さんを
このまま帰したくなかったんだ


寂しそうな深海さんを

一人にしたくなかったんだ

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