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第1章 抱かれる女
「ママ?今度美術館で課外授業があるの。お弁当でも良いし、カフェテリアがあるからそこで済ませても良いって先生が言ってた」

母との生活は、とても静か。

「じゃぁお弁当張り切って作らなきゃね。おこずかいはこれぐらいで良い?」

母は自分の財布から5千円を出して、私にくれた。

「忙しいなら、カフェで食べるから良いよ」

「平気よ。展覧会用の人形は小牧君が手伝ってくれたから、ほぼ完成してるし。好は気にしなくて良いのよ」

小牧さんは、美大卒で母の後輩にあたる。年齢は30歳ぐらいだった様な気がする。展覧会やイベントなどがある時には手伝ってくれて居た。

「ねぇ。ママ?小牧さんって彼女居るのかな」

「どうして?小牧君にも、彼女の1人や2人、居るでしょう?」

小牧さん自身もアトリエを持っていて、絵を描いたり、奇妙な造形物を作ったりしていた。

「彼女って普通1人じゃないの?」

母は、夕食の支度で気もそぞろだ。

「小牧君、優しいしハンサムだから」

祖母から送られてきた沢庵を切りながら母は笑った。

「えー。そんな風には見えないけどなぁ」

私は母の隣に並んで、筑前煮を鍋から器へとよそった。

「どうしてそんな事聞くの?」

テーブルの上に2人分の食器が並ぶ。それにももう慣れた。

「だって、ママがお願いすると、すぐに来るでしょ?彼女居たら、そんなしょちゅう手伝いに来ないでしょ?」

丁度、ご飯が炊き上がりを知らせる音が鳴った。

「言われてみれば、そうねぇ。小牧君に聞いた事無かったけど、今度聞いてみるわ」

母は手を洗い、出来立てのご飯を大きくかき混ぜてから、茶碗へと盛った。2人でおかずやご飯を運び、私は席に着いた。

「さぁ。いただきましょう」

私に遅れて、母はエプロンを外し椅子に座った。




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