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VERTEX
第1章 行かないで…
リングの向こう側、正面にあるスクリーンには霧島さんのアップが映し出されてVERTEX参戦の文字が浮かび上がる。
女性ファンがキャーキャーと黄色い悲鳴を上げる中をフード付きローブを頭から被って顔を見せないようにした霧島さんがリングにゆっくりと上がって行く。
リングでスポットライト浴びた瞬間に霧島さんがローブを脱ぐと黄色い悲鳴が一段と高くなる。
これは演出…。
観客には強い男の姿をギリギリの一番良く見える場所で晒すという演出…。
この後に始まる試合では更に強い男の姿を霧島さんなら必ず見せてくれる。
軽くジャンプなどをして霧島さんも挑戦者もリングで動き回る。
真ん中へと寄せられて禁止ルールの確認をレフリーがする。
格闘技ならなんでもありと言われるシュートボクシング…。
パンチにキック、更に投げ技、絞め技は当たり前。
それでもバッティング(頭突き)や肘打ちなどの危険行為は禁止されている。
レフリーの言葉に両者が頷きファイティングポーズを構える。
試合開始のゴングが鳴る。
相手が霧島さんに突進する。
涼ちゃんと同じでパワーファイターの霧島さんも投げ技や絞め技は不得意だからだ。
霧島さんが自分の距離を掴む前に霧島さんの懐に入り投げ技からの絞め技に持ち込む展開を狙うのは常套手段だと言える。
ズドンッ…
激しい音が響く。
挑戦者の身体がくの字に折れる。
霧島さんの放ったボディーブローが挑戦者のみぞおちにめり込んでいた。
開始僅か1分のダウン…。
挑戦者は立てずに試合が終わった。
これがVERTEXに上がれる人の実力だと霧島さんが見せつける。
「理梨の為に、あそこまで上がってやるよ。」
涼ちゃんが呟く。
行かないで…。
それが素直に言えない。
客席は大盛り上がりの中、私と涼ちゃんだけが手を繋ぎ俯いたままだった。
そして2年後…。
涼ちゃんは霧島さんを追うようにしてVERTEXへと旅立った。