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VERTEX
第10章 取らないで…

その後の撮影シーンは順調だった。
本物の飛行機のようなセットの中で涼ちゃんと国崎さんが椅子に座って並ぶ。
国崎さんが窓の外をぼんやりと見る。
涼ちゃんが国崎さんの髪を撫でるようにして彼女の頭を引き寄せる。
ゆっくりと涼ちゃんに振り返る国崎さんがとても綺麗な笑顔を涼ちゃんに向けた。
如何にも今から2人で旅立ちますという恋人同士にしか見えなかった。
これが演技?
どう見ても国崎さんが本気で涼ちゃんに恋してるようにしか見えない。
撮影の監督さんやスタッフさん達、スポンサーさんは満足した顔をする。
狭いスタジオの中で私だけが不機嫌に変わっていく。
「無事に終わりそうね。」
和美さんが私の横に来た。
「終わってくれないと迷惑です。試合の2週間前なんですから…。」
和美さんにまで嫌味を言ってしまった。
問題のベッドシーンもこのスタジオで撮り直すとかいう流れになった。
いつの間に用意をしたのか、あのホテルの時と似たようなベッドがスタジオに用意されている。
どんどんと気分が悪くなる。
涼ちゃんは私のところに戻って来ずに国崎さんと何かを話しては笑ってる。
私はただのマネージャー…。
今は国崎さんが涼ちゃんの恋人だという雰囲気がスタジオ全体に広がった。
ベッドシーンが始まる。
涼ちゃんが国崎さんの髪を撫でて腰に手を回す。
国崎さんが照れたように笑って涼ちゃんを見つめる。
涼ちゃんも国崎さんに優しく微笑んでから国崎さんの頬にキスをした。
「カット…、お疲れ様でした!」
監督さんの言葉に誰もが拍手を送った。
私1人が俯いたまま取り残された気分になる。
取らないで…。
私から誰も涼ちゃんを取らないで…。
吐き気がしてスタジオから飛び出していた。

