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第10章 取らないで…



「理梨…、帰ろう…。」


廊下の長椅子に座っていた私の前に座り込んで私の顔を覗き込む涼ちゃんが居た。


「終わった?」

「終わった。飯でも食って帰ろう。」


涼ちゃんが私の手を握って立たせる。

泣きそうになる。


「理梨?」


涼ちゃんが私の頭を撫でて来る。

涼ちゃんに抱きついた。


「そんなに嫌だったか?」


心配そうに私を見る。


「演技でも嫌だった…。」


我儘なのはわかってる。

それでも涼ちゃんが他の人に笑顔を向けたのがこんなに辛いと感じる。

涼ちゃんが私の肩を抱いて駐車場に向けて歩き出す。


「国崎さんと何を話してたの?」


車に乗ってから聞いてみた。


「俺にはよくわかんねぇ。感情移入が出来ないと無理なんだとかこの仕事だけは失敗したくないとか言われたんだ。」


国崎さんはドラマや映画で共演した人に毎回必ず恋をするらしい。


「毎回!?」

「らしいぞ。それで撮影が終わったら必ず気持ちが冷めてさよならってなるとか言ってた。」


涼ちゃんがため息をつく。


「それで?」

「だから…、国崎が自分は処女だとか恋愛経験がないんだとかよくわかんねぇ事言って…、とにかく疑似恋愛って言うのか?そういう気分が演技をするのに絶対に必要なんだって言うから…。」

「言うから?」

「………。」


口篭るという事は涼ちゃんも後ろめたいらしいと察しはつく。


「正直に言え!」

「言ったら理梨が怒るじゃん!?」

「言わなくても怒る!」

「だから…、だったらスタジオに居る間だけは俺だけを見てろって言ってやっただけだよ!」


嘘でも涼ちゃんが他の人をその気にさせた。

頭に血が登る。

涼ちゃんに限ってそれだけはないと思ってたのに…。


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