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VERTEX
第20章 親戚…

今の時期…、大学の合格通知を貰っても決して弾む気分になれそうにない。
それどころか日に日にピリピリとした空気が私の周りを包み出す。
いつも通りにジムに行く。
やっぱりか…。
そう思う。
リングの脇にはボロ雑巾のように横たわる加藤さんの姿が見える。
涼ちゃんの方はリングの上で篠原さんを相手にミット打ちをしている。
横たわる加藤さんに近付き、とりあえずその背中をタオルで拭いてあげる。
「すみ…ません…、自分…で…やります…から…。」
息も絶え絶えに加藤さんが言う。
涼ちゃんとの無茶なスパーリングでボロボロにされているのにそんな加藤さんに知らん顔とかしたりは私には出来ない。
「風邪…、ひくから…、汗だけは拭きましょうね。」
「すみません…。」
加藤さんの呼吸が戻るまでは私が加藤さんに付き添ってあげるようにする。
篠原さんは涼ちゃんに付きっ切りだし、会長さんも霧島さんに付きっ切りの状況だから…。
VERTEXの試合まで…、後1週間。
地方試合もあるからジム全体がピリピリとしていて加藤さんを思いやる余裕なんか誰にもない。
私が出来る事なんか限られている。
加藤さんが起き上がれる頃に霧島さんが会長さんとロードから帰って来る。
霧島さんもボロボロだと思う。
爽やかな笑顔が消えて減量に苦しむファイターの姿しか最近は見せてくれない。
「涼二…、上がれ…。」
会長さんが涼ちゃんに帰るように促す。
この後は霧島さんだけが更にトレーニングをする。
誰も何も言わないけれど、霧島さんの相手がミケだからという理由だけで霧島さんはトレーニングが止められない状況に追い込まれていた。
これが頂点のままで居る人のトレーニング…。
生活のほとんどがジムとVERTEXに奪われる。

