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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第3章 後編
「そうだなあ。まだ生きてるから、これからどうなるかは分からねぇが、今んところで答えると」
養父は周りの果樹を眺めて、言いました。

「俺の今迄の人生の中に、それさえ墓場に持っていけりゃあ満足だって物が、一つだけある。墓場に持ってく物だからな、何かは秘密だ。ただ、お前にもそういう物がいつか出来るかも知れねぇから、どんな物かは言えねぇが、そういう物が有るんだって事だけぁ特別に教えといてやる」
「果物ですか?」
「違ぇよ、馬鹿野郎。…しまった。おい、秘密って言っただろ」
養父は子どもの頭をこつんと軽く叩きました。

「仕方無え、まけといてやるよ。そいつは、すげぇ綺麗な夢だ。俺が産まれて来たのはそのためだけだと言われても、満足する位綺麗なもんだな」
先ほど頭を小突いた手で、今度は子どもの頭をわしわしと撫でました。

「夢はもう消えちまったが、俺に欠片を残してくれた。俺は今は半分位はそいつのおかげで生きてるな 。そういうのを幸せって言っても良いんなら、俺はこの上ない幸せ者だ 」
「…よく分かりません。難しいです、マイスター」
子どもは頭を乱暴に撫でられながら眉を顰めました。
園主の答えは、もう記憶が朧げになりかけた子どもの母親が数年前に残してくれた答えより随分複雑で難しく、まるで謎掛けの様に聞こえるものだったからです。

「分からねぇで良いさ。そんな分かり辛ぇ物を後生大事にしてるより、はっきり幸せだって言える人生の方が、誰がどう見ても幸せなんだろうからな。ただ、もう一つだけ教えといてやる」
髪がくしゃくしゃになる位頭を撫でた手は、最後に二つぽんぽんと弾むと、子どもの頭から離れて行きました。

「お前の幸せは、お前が決めて良いんだぞ。もし誰かの言う事がお前の思ったのと合わねぇことがあったなら、お前が自分で決めた方を取れ。たとえ『誰か』が俺であっても、どっかの王様であってもだ」
「分かりました、マイスター」
林檎の花が薄明かりのように浮かぶ夕暮れ時に、子どもは意味はよく分からなくても、今聞いたことは忘れずに憶えていようと思いました。
それから二人は、揃って屋敷に戻って行きました。
落ち切る前の夕日に照らされた大小二つの長い影の歩く姿は、とてもよく似ておりました。…が。
夕風に揺れる林檎の花の他には、誰もそれを見ている者は居りませんでした。
                 【終】
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