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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
薄い青の瞳、栗色の髪、同じ色の無精髭を生やした壮年の男が、馬の手綱をぎゅっと握り締めながら石畳で舗装された道を歩いていた。
目的地である聖都<アルカディア>の城壁が見えてきた。出発してから馬で6日、大雨で足止めを食らわなければ5日で着くはずだった。
乗っている茶色の馬は比較的大人しい性格で、道中暴れることはなかった。やっと見えてきた聖都に馬も安心したのか、溜め息かのように鼻を慣らした。
「……ここに来るのは12年ぶりだ」
変わっていないな、と壮年の男は馬のたてがみを撫でながら呟いた。
ちょうど隣を通り過ぎた色の黒い商人が、独り言を発した男に対して訝しげに目を細めていた。
聖都<アルカディア>。
神に遣わされた精霊たちが1000年前に建てたと言われている美しい都市。城下町を抜けた中心部にそびえ立つ大きな白い大聖堂<セント・ユースティア>は、世界を創ったと言われる神を信仰する世界宗教「ユリイカ教」の総本山とされ、その神の代理人とされる教皇が住む場所である。
3ヶ月前、新しい教皇が即位したばかりだ。
城下町に続く南門を抜けると、お祝いムードはまだ町の中に残っていた。赤と白の横断幕が壁に掛けられ、町の人々は騒がしく活気に満ちていた。
男は町の喧騒を遠い目で眺めながら、セント・ユースティア大聖堂に続く街道を馬に進ませた。街から離れると、すれ違う人々は先程のような出身も言語も様々な街人や商人ではなく、大聖堂に住む聖職者やそれらを守る騎士団の人々に変わった。
楽しい城下町の雰囲気が変わった。城下町の人々の騒がしい声が遠ざかり、大聖堂が近くなってくるにつれて、静かで荘厳な空気がのしかかってくるようだった。
「サー、御用は?」
大聖堂の門の前に来ると、門番である若い騎士団員が訊ねてきた。
「アヴィレス・バトラーです。カルコンヌの大司教に呼ばれて参りました」
馬に提げた荷物袋の中から、先日送られてきた手紙を出して、壮年の男──アヴィレス──は門番にそれを提示した。
門番はそれを受け取り、手紙の中身を確認する。紛れもなくカルコンヌのメーヴェ大司教の朱印がサインされてあり、偽装されたものではないと分かる。
門番がアヴィレスに手紙を返し「神の御加護を」と愛想よく言うと、閉じられていた門は大きな金属音の後にゆっくりと開き始めた。
目的地である聖都<アルカディア>の城壁が見えてきた。出発してから馬で6日、大雨で足止めを食らわなければ5日で着くはずだった。
乗っている茶色の馬は比較的大人しい性格で、道中暴れることはなかった。やっと見えてきた聖都に馬も安心したのか、溜め息かのように鼻を慣らした。
「……ここに来るのは12年ぶりだ」
変わっていないな、と壮年の男は馬のたてがみを撫でながら呟いた。
ちょうど隣を通り過ぎた色の黒い商人が、独り言を発した男に対して訝しげに目を細めていた。
聖都<アルカディア>。
神に遣わされた精霊たちが1000年前に建てたと言われている美しい都市。城下町を抜けた中心部にそびえ立つ大きな白い大聖堂<セント・ユースティア>は、世界を創ったと言われる神を信仰する世界宗教「ユリイカ教」の総本山とされ、その神の代理人とされる教皇が住む場所である。
3ヶ月前、新しい教皇が即位したばかりだ。
城下町に続く南門を抜けると、お祝いムードはまだ町の中に残っていた。赤と白の横断幕が壁に掛けられ、町の人々は騒がしく活気に満ちていた。
男は町の喧騒を遠い目で眺めながら、セント・ユースティア大聖堂に続く街道を馬に進ませた。街から離れると、すれ違う人々は先程のような出身も言語も様々な街人や商人ではなく、大聖堂に住む聖職者やそれらを守る騎士団の人々に変わった。
楽しい城下町の雰囲気が変わった。城下町の人々の騒がしい声が遠ざかり、大聖堂が近くなってくるにつれて、静かで荘厳な空気がのしかかってくるようだった。
「サー、御用は?」
大聖堂の門の前に来ると、門番である若い騎士団員が訊ねてきた。
「アヴィレス・バトラーです。カルコンヌの大司教に呼ばれて参りました」
馬に提げた荷物袋の中から、先日送られてきた手紙を出して、壮年の男──アヴィレス──は門番にそれを提示した。
門番はそれを受け取り、手紙の中身を確認する。紛れもなくカルコンヌのメーヴェ大司教の朱印がサインされてあり、偽装されたものではないと分かる。
門番がアヴィレスに手紙を返し「神の御加護を」と愛想よく言うと、閉じられていた門は大きな金属音の後にゆっくりと開き始めた。