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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
門を抜けると大理石でできた美しい大聖堂が視界に大きく広がっていた。ユリイカ教の歴史に名を残した歴代の教皇、聖人の立像が塀の上に飾られ、その像の視線は全て大聖堂に注がれるように配置されている。
中央の広間を通ると、階段を登った先に教会堂(バシリカ)に続く玄関が見えてきて、アヴィレスはいつ見ても見事で美しい建築物を目を奪われながら、ゆっくりと馬を降りた。
太陽の陽射しが白い柱に反射して目が痛くなる。
12年前と全く変わらない光景に、まるで世界の時間が止まってしまって、自分だけが年をとったかのように思えて薄ら寒くなった。神の御業というべきなのか、これから先もこの大聖堂は、人々の信仰と敬愛をその身に受けながら変わらずに此処に立っているのだろう。
「遠路はるばるご苦労様でした、サー・アヴィレス殿」
アヴィレスが大聖堂の妖しい美しさに圧倒されている時、階段の上にいた老いた男性が声をかけた。赤い聖衣を身に付けているということは高位聖職者である大司教である。
「お久しぶりです、メーヴェ大司教」
「十数年ぶりですかな、以前もここでお会いしましたな。先代の教皇ニコレウス3世様の即位式で」
アヴィレスを手紙を送り、聖都に呼んだ張本人であるカルコンヌ大司教のメーヴェは恭しく頭を下げた。前回に会った時より顔に刻まれた皺は深くなっていた。
年のせいで腰が悪いのか、メーヴェは痛そうに顔を歪めて、アヴィレスは慌てて彼に手を添えた。
「はは……いやはや申し訳ない、私も歳を取りました」
メーヴェは力無く微笑むと、アヴィレスが差し出した腕に掴まって身体を支えた。そして2人は大聖堂の中にゆっくりと歩き出した。
高齢のメーヴェの歩くスピードに合わせてではあるが、美しいステンドグラスや教壇のあるバシリカを通り抜けた。
「……先代の教皇は、わずか51歳でこの世を去りました。信徒や司教達から慕われていて……惜しい方でした」
「……えぇ、兄のような存在でした」
「そうでしたな、あなた方は立場さえ違えど、まるで血を分けた兄弟のようでした」
メーヴェの言葉にアヴィレスは頷きながら返事した。
先代の教皇ニコレウス3世。
西の貴族カートル家に生を受けた次男のジョナサンの聖別名で、つい1年前までユリイカ教の教皇として聖都を治めていた。
中央の広間を通ると、階段を登った先に教会堂(バシリカ)に続く玄関が見えてきて、アヴィレスはいつ見ても見事で美しい建築物を目を奪われながら、ゆっくりと馬を降りた。
太陽の陽射しが白い柱に反射して目が痛くなる。
12年前と全く変わらない光景に、まるで世界の時間が止まってしまって、自分だけが年をとったかのように思えて薄ら寒くなった。神の御業というべきなのか、これから先もこの大聖堂は、人々の信仰と敬愛をその身に受けながら変わらずに此処に立っているのだろう。
「遠路はるばるご苦労様でした、サー・アヴィレス殿」
アヴィレスが大聖堂の妖しい美しさに圧倒されている時、階段の上にいた老いた男性が声をかけた。赤い聖衣を身に付けているということは高位聖職者である大司教である。
「お久しぶりです、メーヴェ大司教」
「十数年ぶりですかな、以前もここでお会いしましたな。先代の教皇ニコレウス3世様の即位式で」
アヴィレスを手紙を送り、聖都に呼んだ張本人であるカルコンヌ大司教のメーヴェは恭しく頭を下げた。前回に会った時より顔に刻まれた皺は深くなっていた。
年のせいで腰が悪いのか、メーヴェは痛そうに顔を歪めて、アヴィレスは慌てて彼に手を添えた。
「はは……いやはや申し訳ない、私も歳を取りました」
メーヴェは力無く微笑むと、アヴィレスが差し出した腕に掴まって身体を支えた。そして2人は大聖堂の中にゆっくりと歩き出した。
高齢のメーヴェの歩くスピードに合わせてではあるが、美しいステンドグラスや教壇のあるバシリカを通り抜けた。
「……先代の教皇は、わずか51歳でこの世を去りました。信徒や司教達から慕われていて……惜しい方でした」
「……えぇ、兄のような存在でした」
「そうでしたな、あなた方は立場さえ違えど、まるで血を分けた兄弟のようでした」
メーヴェの言葉にアヴィレスは頷きながら返事した。
先代の教皇ニコレウス3世。
西の貴族カートル家に生を受けた次男のジョナサンの聖別名で、つい1年前までユリイカ教の教皇として聖都を治めていた。