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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
「これで叙任式は終了いたしました。午後からは会議がありますので、皆さん、いつもの会議室でお願いします」
メーヴェが一堂に対して事務的に伝える。大司教たちはめいめい返事をするか頷くかして大広間を出て行った。
アヴィレスはゆっくりと立ち上がって、教皇から受け取った剣を鞘に納めた。頭の中でぐるぐると反芻するのは、エメラルドの瞳を持つ若い教皇のことであった。自分と旅を共にした短剣の柄に埋め込まれたエメラルドのように、澄んだ気高さがあった。
先程自分の目の前に立ち、誓いの剣を手渡していたというのが嘘だと思えるほど、浮世離れしているような雰囲気を纏っている青年であった。
「……叙任式お疲れ様でした、サー」
玉座の間をぼんやりと眺めていたアヴィレスに、リシャールが近寄って話し掛けた。
「本来は非常に長ったらしい式なんですよ。何時間も向上を述べたり、大司教の全員が祈ったり……教皇様が時間の無駄だと仰って、簡略化なさったのです」
「…賢明な判断ですね」
リシャールの整った唇が愛想良く弧を描くのを見て、アヴィレスも釣られて吹き出して笑った。朝から感じていた緊張がふっと解かれた気がした。
「……先程の大司教たちの失礼な発言、私が代わって謝罪いたします。どうか気を悪くしないでください」
大広間を出て2人で並んで歩きながら、リシャールは申し訳なさそうな表情で言った。
叙任式が始まる前、ガルヴァドス大司教がアヴィレスの年齢を詰った件のことであろう。気にもとめていなかったアヴィレスは、慌てて首を横に振って謝罪を制した。
「いや、リシャール大司教がわざわざ謝罪するほどのことでは……」
「ですが、聖なる式典の前で適切な言動ではありませんでした。きっと剣士として世界を旅をした貴方に嫉妬しているのでしょう、あの年寄りたちは西大陸(ウェストゥア)の4分の1も自分の足で訪れたことがありませんから」
廊下に射し込む太陽の光に照らされ、中庭の青々とした植え込みや花が光って見えた。春の暖かい陽気と綺麗な花園、これすらも神の恩寵に思えてしまう。
リシャールの優しい言葉に、アヴィレスはなんだか照れ臭くなってきた。初対面だというのに、大司教たちの野次も尤もだと思っている自分としては、真っ直ぐで誠実な人だと感じた。
メーヴェが一堂に対して事務的に伝える。大司教たちはめいめい返事をするか頷くかして大広間を出て行った。
アヴィレスはゆっくりと立ち上がって、教皇から受け取った剣を鞘に納めた。頭の中でぐるぐると反芻するのは、エメラルドの瞳を持つ若い教皇のことであった。自分と旅を共にした短剣の柄に埋め込まれたエメラルドのように、澄んだ気高さがあった。
先程自分の目の前に立ち、誓いの剣を手渡していたというのが嘘だと思えるほど、浮世離れしているような雰囲気を纏っている青年であった。
「……叙任式お疲れ様でした、サー」
玉座の間をぼんやりと眺めていたアヴィレスに、リシャールが近寄って話し掛けた。
「本来は非常に長ったらしい式なんですよ。何時間も向上を述べたり、大司教の全員が祈ったり……教皇様が時間の無駄だと仰って、簡略化なさったのです」
「…賢明な判断ですね」
リシャールの整った唇が愛想良く弧を描くのを見て、アヴィレスも釣られて吹き出して笑った。朝から感じていた緊張がふっと解かれた気がした。
「……先程の大司教たちの失礼な発言、私が代わって謝罪いたします。どうか気を悪くしないでください」
大広間を出て2人で並んで歩きながら、リシャールは申し訳なさそうな表情で言った。
叙任式が始まる前、ガルヴァドス大司教がアヴィレスの年齢を詰った件のことであろう。気にもとめていなかったアヴィレスは、慌てて首を横に振って謝罪を制した。
「いや、リシャール大司教がわざわざ謝罪するほどのことでは……」
「ですが、聖なる式典の前で適切な言動ではありませんでした。きっと剣士として世界を旅をした貴方に嫉妬しているのでしょう、あの年寄りたちは西大陸(ウェストゥア)の4分の1も自分の足で訪れたことがありませんから」
廊下に射し込む太陽の光に照らされ、中庭の青々とした植え込みや花が光って見えた。春の暖かい陽気と綺麗な花園、これすらも神の恩寵に思えてしまう。
リシャールの優しい言葉に、アヴィレスはなんだか照れ臭くなってきた。初対面だというのに、大司教たちの野次も尤もだと思っている自分としては、真っ直ぐで誠実な人だと感じた。