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Jacta Alea est.
第1章 叙任式
「汝、アヴィレス・バトラー」

頭上から教皇の声がした。思っていたよりも声が高く、落ち着いた静かな声色だった。

「神ユリイカの名の下に、汝を教皇フェリクス6世の近衛騎士に任ず。いつ何時であっても、生命の炎を燃やし、信仰の光を受け、教皇を護ることを汝は誓うか?」
「……神の名の下に、誓います」

形式通りの台詞を受け、アヴィレスも機械的に言葉を返した。
微かな衣擦れの音の後、教皇の剣がアヴィレスの肩に触れた。鎧と刀身が当たってカチンと軽い金属音がした。これで叙任は完了である。
神の恩寵を宿した教皇の神聖な剣が肩に触れることによって、その騎士に神の赦しの力が宿る。本来殺生はユリイカ教の教義に反するところではあるが、教皇や信仰を護るために血を流してもそれは正義の行いであって「赦される」ということである。

そして段取り通り、アヴィレスの頭上で剣が横に据えられる。アヴィレスはゆっくりと両手を差し出してその剣を受け取った。剣の柄を持つ教皇の手は小さく、白く綺麗なものだった。好奇心で、前教皇のジョナサンが隠しインクで書いてまで守ろうとしたソラという人物の顔を見たくて、アヴィレスはゆっくりと顔を上げて視線を上に向けた。

そこに立っていたのは白い聖衣に包まれた黒髪の美しい人間だった。
「人間」という表現をしたのは、あまりにも男か女か判断しかねるほど中性的な顔立ちだったからである。凛とした雰囲気を纏う教皇は噂通り非常に若く、もはや幼くも見えた。
窓から差し込む太陽の陽射しに照らされたエメラルドの瞳が、じっと真っ直ぐアヴィレスを貫いていた。
想像していた人物像とはまるで異なっていて、そしてその美しさにあてられ、アヴィレスは盗み見たはずが視線を奪われていた。

「………近衛騎士アヴィレス・バトラー、燃える炎の中に、神の御加護があらんことを」

教皇は剣を受け取って固まってしまった目の前の壮年の男を見下ろしながら、緊張で固まったのだろうかと考えながら叙任の最後の向上を述べて、踵を翻した。アヴィレスの目の前でふわりと赤いマントが揺れ、遠ざかっていった。


これで叙任式は終わった。教皇が大広間から退席し、大司教たちがふっと気を緩めるのを感じて、アヴィレスもはっと我に返った。
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