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逆転満塁ホームラン!
第9章 何気ない優しさ
「マジかよ……」
「お前しばくぞ、何でそんな顔すんねん」
「ホンマに嫌やもん。」
「……。」
心の叫びには返事はしてくれなかった。
こういう時は黙り込むなんて、こいつのズルい所をまたも発見だ。
「隣が総司やった「お前、ほんまにあんまり総司総司って言うなや。」
「ええ?」
もう、なんか言い返す元気もないなあ。
せっかく落ち着ける空間になるかな?と思ったのに。
毎日毎晩の様に部屋の前を歩くハイヒールの音でもしたら、嫌でも天草の顔を思い出してしまう事だろう。
しかもコイツって朝から人の迷惑なんて考えずに窓全開で洋楽とか流してそうだし。
「お前も、もう立派な大人やろ」
「……」
「んなやったら、総司ってアホの一つ覚えみたいにアイツの名前ばっかり呼ばんでええやんけ。」
「そんなん大事な友達やもん。」
「俺も大事にしてるんちゃうんけ?」
「へっ?」
「だから、俺もお前の事を……そのっ……俺なりに…」
どんどん小さくなっていく語尾。
言いたい事は何となく分かるけど、まさかここで言われるなんて思ってもなくて、別の意味の驚きで彼の事を捉えた私の瞳が意図もしてないけれど、決して動かなかった。
「何?」
「──だから!俺なりに大事にしとるやんけ、って言ってんねん!!」
うお、今度は逆ギレか?
窓の外を見て、完全に不貞腐れオーラが漂ってる天草。
「………っ!」
「お前の事を大事にしてくれてる人に頼るんやったら、遠い所に居る松本とか住友の前に、隣やねんから何かあったら俺頼ってきたらええやんけ。」
「第一、松本ともいちいち連絡取らんでええねん」
「………。」
瞬間湯沸かし器みたいだな。
一度、言ってしまったら自分の気持ちに素直になるのがいかに楽かという事に気付いたのかポンポン言葉を出してくる隣の男。
未だに顔はコチラに向けないけれど、耳まで真っ赤だ。
「そのっ、確かに俺に言う色々言う権利はないから」
「必要以上に……ッ、連絡とらんかったらって意味やけどな。」
と黙りこくっている私の心がイマイチ読めなかったのか、ちゃんと訂正をしてきた彼の背中が、何だか可愛く思えた夏の夜だった。