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逆転満塁ホームラン!
第3章 不吉な予感
「っぷは〜!マジで……ッ、マジでッ、有りえない!」
もう何杯目になるか分からないビールを飲みきってから、もう一杯を催促すると『あんず屋』のマスターは苦笑いを浮かべた。
試合開始は18時、終了したのは20時10分。
お察しの通り、阪神はスムーズに負けて延長にもつれ込む事もなく試合は終了した。
天草に売られた喧嘩を買えばよかった、と何度後悔した事だろう。
あの時の──ヒーローインタビューのアイツの顔を思い出すだけで反吐が出そうだ。
お立ち台を降りる時の『みたか!』という、まるで子どもがする様な挑発。
普段ならアイツのキャラだ、と気にもかけてなかったけれど今日は別だ。あの挑発は完全に私に向けてるもの。
人数不足の為、球場の軽い清掃とグッズ売り場の閉め西行を手伝っていたら、北新地入り出来たのは22時半を回った時だった。
水曜日だけれど、周りにお客さんは私しか居ない。
これが深夜一時を回るとアフターで利用するホステス達で溢れ返るのだ。つまり、それまでは私がここで酔いつぶれても何の問題もないってこと。
「あいつう!ホンマに人が下から出てるからって調子乗りやがって。盗塁する前に躓いて一塁二塁の間でタッチアウトされれば良いねんっ……!」
ふつふつと浮かび上がる俗に言う【恥ずかしいアウトの瞬間】というもの。
紛れもなく、その相手は天草流であって。
マスターはある程度、事情を理解したのかずっとウンウンと私の話を聞いてくれている。
こんな時に住友財閥の御曹司が隣に居れば尚良いのだろうけど、アイツは東京に帰ってしまった。
多分、まだ仕事をしてるか……終わったあとどこの店で飲もうか考えている最中だろう。