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逆転満塁ホームラン!
第19章 独占欲は突然に
蹴り上げられたベンチは軽く凹んでるし、さすが元ヤンだなあ。なんて軽い事を思いながら声を掛ける。
「何か有ったか?」
「すみません、何も無いっすけど…」
何も無い……かあ。そうだよな。
松本は吉瀬ちゃんの気持ちが天草に完全に向いた事を知って、最近は連絡を控えてるみたいだし。阪神との試合の時も今のあの子は完全にウィングスを応援してるし。
「吉瀬ちゃん絡み?」
「違うっすよ」
と言った途端に目が右上を向く。
人間はウソを付く時、必ず利き手の方へ目を反らすから完全にウソだと分かった。さすがに子持ちで三十代の俺だから、たかが二十そこらの奴のウソ位はすぐ分かる。
「何か分かんねえけどさ」
「……はい。」
「物に当たるのは良くないぞ?これだって会社の経費で買い与えられてるモンなんだし、お前も餓鬼じゃないんだから」
「……。」
「あとな?」
「何すか?」
「まだ告白も何もしてねえんだろ?」
「いつするのか、するつもりが有るのか……俺もそこまでは分からないけど、何か聞きたい事や思った事が有るならちゃんと本人に伝えた方がいいぞ。」
「あの子は確かに可愛らしいから人並みに恋愛も経験してるだろうけど、根が鈍感だからな。お前がキレてても『何か機嫌悪いなあ』位にしか思われねえのがオチなんだし。」
小学校の先生でも無ければ、俺はコイツの親でもない。
ましてや他の選手達が居る場でこんな事を言うべきではないかもしれないけど───。
コイツの吉瀬ちゃんに対しての異常な愛情や不器用さはウィングスメンバーだけでなく、他球団……しかもパ・リーグの球団までもに知れ渡ってるって話しだから、ここで俺が何かを言った所で皆の心の中は『その通りっすよ、内海さん。』くらいだと思う。