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サイドストーリー9
第20章 「砂漠の薔薇」
その声を手放して8年。

彼女と付き合った、同じ年数分俺はひとりで彼女を思い出す。

あの時の選択が
正解だったのか
間違いだったのか
他の道はあったのか
いつも考える。

俺の身勝手で手放してしまったあの声を
きっとこれからも忘れない。

「こーちゃん」

そう呼んでいた声は
去年のゼミの同窓会で「多田くん」と変化を告げて
16年前の呼び方に戻っていた。

遠く離れた席で、目があった時
幸せそうに笑って口の動きだけで
「元気?」
と聞いてきた。
うなづくだけの俺に優しく笑って
「ありがと」
そう口元を動かした。

その全てを読みとれるだけの時間を俺たちは一緒に過ごした。

「こーちゃん」

きっとこれから先も
俺の事をそう呼ぶ子は現れない。

彼女だけが―――
そう呼んでいた。


END***

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