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女鑑~おんなかがみ~
第13章 水揚げ
身体を奥まで貫いていた熱いものが,腰のぞわぞわとした感覚を伴って遠のき,つかの間ほっとしたが,再び焼けるような痛みが,傷ついた内壁をこそげるようにして戻ってくる。その次も,その次も。
圧迫感が遠のくたびに,次にくる痛みを恐れて身構える,ということを葵は何度も繰り返した。しかし,その間隔がどんどん短くなってくると,ただ次々に押し寄せる痛みと圧迫感を受け入れ続けるしかなくなる。
これがいつまで続くのだろうか。

葵は男の背中をぎゅっと掴んだ。
この痛みから解放されたい,逃れたいという思いと,同時に,この痛みから逃れたら自分には行き場がなくなるのではないかという恐怖。
痛い,痛い,ということのほかに何も考えなくて済む状況は,肉体的には辛くても,気持ちは今のほうが楽だと,少し痛みに慣れ始めた頭で,葵はぼんやりと考えた。

さっきまでの,身体の奥に押し寄せる波と抗っていた時のほうが苦しかった。
あのときは耐えきれなくて逃げたが,今は逃げたいとは思わない。

「お前は生来,いやらしくて,浅ましくて淫らな女だ」という若槻の言葉が,頭の中で何度も響く。

そういえば,若槻さんの手から逃げて布団を被っていた間も,ずっと待っていたのだ。
私は渾身の力で抵抗し,それでも抵抗空しく,恐ろしい虎に食われればよい。
そうして,だれよりも正しくて清らかな少女のままで,生贄になる。
兄と張り合ってばかりいた幼いころに見た夢の続き,それを望んでいたのだ。

そうやって食われてしまえば,厭らしい女にはならずに済むのに。
乳首からも首筋からも押し寄せる熱い波を,腰の奥で待つような,淫らな女にはならずに済むのにと。

けれど,若槻さんは,私の想像していた恐ろしさとは違う恐ろしい虎だった。
自分ですら気づいていなかったその願いを,一瞬で見抜かれてしまったのだ。
布団の端を捲られて目が合ってしまったとき,あの恐ろしい虎は,私の邪な願いを見抜いた。

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