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女鑑~おんなかがみ~
第14章 被虐
幼い日,桃の花を探して庭の木陰でみた兄の前で,跪いていたのはスエさんだった。
スエさんは,お兄様にこれをしようとしたのだろうか。
スエさんは,強いられもしないのに,自分からこれをしようとしたのだ。
でもお兄様は怒ってスエさんを殴った。
スエさん,つまり夕顔さんは孝秀兄さまのことがそんなに好きだった。
でも,兄さまのほうは・・・

けれど,それよりあとに兄さまは,スエさんに結婚しようという手紙を書いている。
兄さまもたぶん,スエさんのことは好きだったけれど,こういうことはさせたくなかったのだろうな。

わかるような気がした。
けれど,私は,好きでもない男にこういうことを平気でする女になる。
兄さまには多分,軽蔑され,憎まれるだろう。
…それでもいい。
********************

「馬鹿野郎,歯を立てる奴がいるか」
頭の上で怒声が響いて,口のなかの塊は一気に引き抜かれた。
「も,申し訳…」
謝ろうとするが口がおかしくなってしまったようで声が出ない。
「まあいい。初めてではこんなものか。
昔の支那の皇帝の後宮では,何千人という妃が皇帝の寵愛を受けていたが,そのなかには口で皇帝を歓ばせるためにすべての歯を抜かれた女もいたんだぞ。どうだ,できるか。」

残忍な目で見下ろされる。恐ろしくて震えた。

かつて,一人の皇帝のために何千という女たちが後宮にいたという話は,以前に兄から聞いたことがある。皇帝の死に殉ずる女たちもいたというのだから,その話もありそうだと思う。けれど,殉死以上に恐ろしいことのように思われた。

その女たちは,皇帝のことが好きだったのだろうか。ただ不幸な女だったのか。
それとも,痛めつけられて歓ぶ,みだらな女だったのか…。

「では入れるぞ。この鏡のほうを向いて四つん這いになれ。」
恐ろしい話を聞いたためにぼんやりと考えていたら,肩を乱暴に引っ張られた。
思わず涙が溢れる。

「いいか。昨日のように,足を広げて仰向けになっているだけで商品価値があるのは,初物のときだけだ。
君は,高く売れる女になりたいんだよな。」





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