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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
翌日,はがきが届きました。
「勝手をお許しください。生きてはいますから,心配しないでください」という旨の短い文章は,明らかに百合子の筆跡でしたので,これは百合子の意思による家出だと認めざるを得ませんでした。
誘拐などの犯罪に巻き込まれたのではないことがわかった安心感と,同時に言いようのない悲しさを感じました。
私は,百合子の実家を尋ねました。実家に帰ったのかもしれないと思いましたし,もしそうではなかったのなら,事情を説明する必要があります。
私は,自分に何か至らないことがあったのだろうと,百合子の両親に対して平身低頭して詫びましたが,両親のほうも,娘の勝手により迷惑をかけて申し訳ないと恐縮して詫びておられました。
百合子が実家に帰っている様子はありませんでした。
「百合子が,私との結婚を取り消したいのであれば,尊重します。ただ,理由だけは教えてほしい」と私は百合子の両親に願いましたが,両親も行き先を知っている様子はありませんでした。
私は,もし百合子が実家のほうに戻ってきたなら,そのことだけは知らせてほしい,無理に連れ戻すようなことはしないということを百合子の父親に申しまして,そのまま立ち去ろうとしました。
そこへ,百合子の母親が父親の目を避けるようにして,私のところに話に来ました。
「あの娘は,病弱のために幼く見えるかもしれませんが,じつは早熟なところもあったので心配していたのです」と母親は言いました。
「百合子は,佐伯先生に受け持ちになるまえは,本当に病気がちで,年に半分以上学校も休んで寝たままでした。本来なら,進級もできないところ,この子の大叔父でもある校長先生にご無理をお願いして,進級させていただいていたのです」
そこまでは私も知っている話でした。
「勝手をお許しください。生きてはいますから,心配しないでください」という旨の短い文章は,明らかに百合子の筆跡でしたので,これは百合子の意思による家出だと認めざるを得ませんでした。
誘拐などの犯罪に巻き込まれたのではないことがわかった安心感と,同時に言いようのない悲しさを感じました。
私は,百合子の実家を尋ねました。実家に帰ったのかもしれないと思いましたし,もしそうではなかったのなら,事情を説明する必要があります。
私は,自分に何か至らないことがあったのだろうと,百合子の両親に対して平身低頭して詫びましたが,両親のほうも,娘の勝手により迷惑をかけて申し訳ないと恐縮して詫びておられました。
百合子が実家に帰っている様子はありませんでした。
「百合子が,私との結婚を取り消したいのであれば,尊重します。ただ,理由だけは教えてほしい」と私は百合子の両親に願いましたが,両親も行き先を知っている様子はありませんでした。
私は,もし百合子が実家のほうに戻ってきたなら,そのことだけは知らせてほしい,無理に連れ戻すようなことはしないということを百合子の父親に申しまして,そのまま立ち去ろうとしました。
そこへ,百合子の母親が父親の目を避けるようにして,私のところに話に来ました。
「あの娘は,病弱のために幼く見えるかもしれませんが,じつは早熟なところもあったので心配していたのです」と母親は言いました。
「百合子は,佐伯先生に受け持ちになるまえは,本当に病気がちで,年に半分以上学校も休んで寝たままでした。本来なら,進級もできないところ,この子の大叔父でもある校長先生にご無理をお願いして,進級させていただいていたのです」
そこまでは私も知っている話でした。