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女鑑~おんなかがみ~
第15章 幻滅
「お前の身体の絵を見て,どこの誰とも知らぬ男が・・・。そんなことをさせられるわけがないだろう。そんなこともわからぬか」
怒鳴る私に百合子はいったん,「ごめんさなさい」と言って黙ったものの,しばらくして,涙声のままで語り始めました。

「私は,早く嫁に行きたかったのに,子を産めぬ女ではだめだと言って断られてばかりで,だから父さまは,後妻の口を探してくれて,奥さんを産後に亡くした男ヤモメさんのところにでも嫁げたらと探してくれて,本当に醜い見た目の人や,父さまより年上の人のところでも行くつもりだったのに・・・・。でも,そういうお家では,前の奥さんが弱い人だったので今度は身体の丈夫な嫁が欲しいと言って断られて・・・。私には何の値打ちもないのだと思って悲しかった・・・。
せっかく,大好きな先生が嫁にしてくれたので,天に上るほどうれしかったけれど,先生は,手しかつないでくれない。
私の身体には,女としての値打ちがないのかと思うと悲しくて,それで学校時代に教えてもらった場所を頼りに五助さんのところを訪ねました。

初めて五助さんに女にしてもらったときは,本当に死ぬのかと思うほど痛くて,三日も血が止まらなかったけれど,それでも,この身体を求めてもらえるのが嬉しかった・・。

私はたぶん,もうすぐ死ぬのはわかっています。この身体を求めてもらえることももうないと思うけれど,それでも,知らない人でも,私を見て厭らしくなってくれるのなら,嬉しいの。
先生,先生は真面目で優しい人なのに,こんな淫乱で,ふしだらな女でごめんなさい」

「・・・わかった」
私はそう答えましたが,本当は何もわかりませんでした。自分が今まで思っていた正しさや人の道,優しさとは何か,が何だったのか,わからなくなりました。
ただ,これまで従順で,意見などほとんど言わなかった百合子が,そこまで言うことなら,そのまま聞いてやろうと思いました。

私が画用紙を用意するうちに,目の前では想像もしなかった光景が広がりました。
人間もまた,雄と雌が交尾をする,生物の一つであるということ,これまでにトカゲや蛙やトンボが交わっているところは見たことがありましたが,人間もまた,それと同じ生き物であることに,自分でも理解できぬような感動を覚えました。
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