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女鑑~おんなかがみ~
第1章 身売り
優等生で親孝行だと思っていた孝秀お兄様が、あんなに自分勝手なひとだったなんて。
お父様の顔に泥を塗るようなことをして、そのうえで操子のことを毒蛇だとまで罵って家出をするなんて。
あのあと取引先との関係も悪くなったと聞いたことがある。
後で知った話だけれど、あのころすでにお父様はお兄様のお相手について考えておられたのだ。山をお持ちの資産家のお嬢さんで、もしそういうお家と縁続きになっていれば、恐慌で商売が立ち行かなくなったときにも助けていただけたかもしれなかったのだ。

お父様は婿養子で、もともとはこの倉持木材で職人として働くうち、仕事を任されるようになり、そして勧められて一人娘だったお母様と結婚して後継者となったそうだ。
五年前に亡くなったおじい様はお父様のことを野心が過ぎる、と言っていたけど、操子によっては「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と口癖にしているお父様は頼もしくて好きだ。お父様をお助けしたいと思う。

日ごとにお母様が大事にしておられた家財道具が少なくなり、お母様はふさぎ込んだり、昼間からお酒を飲んで気を紛らわせたりなさるようになった。お母様はずっと跡取り娘として育ち、婿養子のお父様を迎えられた人だから、今のような様子には耐えられないのだろう。

最近ますます、お父様のところには怖そうなお客人が増えてきた。操子は、これでは自分が女学校を卒業しても、お嫁入先もお婿さんに来てくれる方もいないのかもしれない、と考えると恐ろしくなった。

「お父様、どうか私を売ってください。
私はお父様をお助けしたいです。お兄様のような親不孝者にはなりたくありません。
私が身売りをして、お父様とこのお店を守ることができるのなら、私は喜んでどこへでも行きます。」

夕ご飯のとき、操子はお父様とお母様に言った。
お母様は「なんてことを、操子を苦界に沈めるなんて絶対にできません」と言って泣き出し、いつものように気を失った。
お父様は・・・反対しなかった。
「そうか、本当にいいのか。申し訳ないが今はそうするしかない。お前がわかってくれてよかった」とおっしゃった。
お父様に喜んでもらえて嬉しい。孝秀兄様よりもお父様のお役に立てるのかもしれない。操子は、勝ち誇ったような高揚感のままで床についた。
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