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振り向けば…
第30章 神様…



電車は嵐山の駅に着く。


「着いたぞ。」


悠真が今は仕事の事は忘れろと私の頭をくしゃくしゃと掻き回すように撫でて来る。

駅を出ればすぐに川沿いの散歩道が見えて来る。


「あれが渡月橋?」

「今更か?」


私の質問に悠真がクスクスと笑いやがる。


「遠足の時は渡ったっけ?」

「いや、見ただけで渡ってない。」

「なら覚えてないわ。」

「来夢さんは何でも身体で覚える人やからな。」

「うるさい!」


いつも悠真が居なければ、すぐに迷子になる。

いつも悠真が居なければ、立ち止まったままになる。

悠真が、そんな私の背中を押す。


「渡月橋を渡るぞ。」


歩きながら大きな橋を渡る。

観光客が立ち止まって写真を撮る姿を眺めながら、悠真とゆっくりと歩いて橋を渡る。

悠真とあちこちに出掛けても写真を撮るというとかいう観光をした事がない。

思い出だけを持って帰る観光ばかり…。

映画でもパンフレットを買わない悠真。

そこに行った記録を残す気はないように見える。

橋を渡りお土産物屋が並ぶ通りで足が止まる。

飴や金平糖を売る綺麗な駄菓子屋が目に入る。

ガラス張りのショーウィンドウには小瓶に入った小毬飴や金平糖がキラキラと輝きを見せて可愛くて、ついつい欲しくなって来る。


「買うか?」

「唯ちゃんに買うてあげたい。」


小さな女の子なら絶対に喜ぶと思う小瓶がたくさん並んでる。


「来夢は子供…、好きだな。」


悠真が笑う。


「悠真だってやろ?」


子供は女の子が欲しいとか言うてた。

だけど私の質問に悠真が寂しい笑顔を見せる。

何故?

不思議な感覚を感じる。

悠真の感覚と私の感覚にズレを感じる不思議な感覚。

同じように暮らして来て、一緒に育って来たのに微妙に価値観の違いを感じる。

一度、悠真とズレると離れっぱなしになりそうで怖いとか思う自分が居る。

嵐山という自分が知らない土地で悠真と逸れる恐怖を感じる私が居た。


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