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振り向けば…
第30章 神様…
「来夢、乗り換えや。」
悠真が私にそう促す。
「お姉ちゃん、降りちゃうの?」
唯ちゃんが私に聞いて来る。
「うん、お姉ちゃんはここで乗り換えなの。」
乗り換えの意味が唯ちゃんにわかるかはわからない。
「嵐山ですか?」
岩谷さんが聞いて来る。
「はい、嵐山です。」
「楽しんで来て下さい。」
「岩谷さんも…。唯ちゃんも、またね。」
唯ちゃんに私が手を振ると唯ちゃんが
「バイバイ。」
と笑顔で小さな手を大きく振る。
岩谷さんは苦笑いを私に見せる。
唯ちゃんがまだ小さいからお母さんに会わせるのだろうけど、それは岩谷さんには楽しくない状況らしいとだけは感じた。
「知り合いか?」
電車を降りて乗り換えの電車を待つ間に今更な事を悠真が聞いて来る。
「うちの会社の新人さん。」
「新人?」
「ゼネコンを辞めた中途採用の人。」
「ゼネコンを辞めるって勿体なくねぇ?」
「資格が取れなかったらしいの。」
資格さえあれば出世コースに乗れる。
無ければダラダラと同じポジションにいつまでも居座る事になる。
ゼネコン上がりだと言うだけで一般建築会社はそれなりの待遇で迎え入れるところが多い。
だから岩谷さんは転職に踏み切ったのだろうくらいしか考えてなかった。
でも転職が唯ちゃんの為ならば?
ゼネコンだと唯ちゃんに何かあっても簡単には帰れない。
うちの会社ならば、そういう事情を前もって社長さんに伝えておけば多少の融通を利かせてくれる。
嵐山に着くまでの間、ぼんやりと岩谷さんの事を考えてまう。
ゼネコン上がりとはいえ、今は私が彼の上司。
知っておいた方が良い事があるかもしれないとか色々と考える。