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振り向けば…
第43章 何でもない…
からくり時計が動き出す。
それをぼんやりと眺めながら考える。
私と悠真が刻んで来た時の長さを…。
20年…。
色々な事があった。
一言で言い表せない20年…。
その20年という時の長さ分、悠真は1人で苦しんで来たのだと思うと私の意見なんか薄っぺらな意見なのかもしれない。
見えない部分で私よりも努力して来た悠真。
私よりも強く賢い悠真。
そんな悠真にしがみつく。
「どうした?」
「悠真と居たいんや。」
「居るやんけ…。」
やっぱり穏やかな笑顔を私に向けて来る。
優しい笑顔。
優しい声。
だけど、そこに悠真の感情は全く含まれてない事実を私はまだわかってない。
私を安心させる為だけの穏やかな笑顔。
心を持たない男の意味を理解するにはまだ私は未熟な存在でしかなかった。
今回の家族旅行ではまだまだ行きたいところがたくさんあると感じる家族旅行だった。
帰りの車で悠真が私に約束する。
「次は2人で来て、もっと色んな場所に行こう。」
そんな悠真の言葉が嬉しくて私は悠真と空いた微妙な距離に気付かない。
「なぁ、来夢。帰ったら映画にでも行かへんか?」
「あー…、多分、無理やわ。」
「なんでやねん?」
「内海さんらと会わなあかんもん。」
「そんなん、いつでもええやんけ?」
「何を言うてんねん。悠真が悪いんやろ?年末に余計な事を言うから…。」
「余計な事か…、そうやな…。」
そのまま悠真が黙ってまうから後は無言の帰り道。
私は悠真の傍に居てやると決めたんやし…。
悠真はまた愛媛に連れて来てくれると約束してくれたんやし…。
悠真との新しい年の始まりが決まってるのだから少しくらいの無言を気にする必要はないと思うてた。
ほんの小さな歯車のズレは時計が壊れて時が止まってまうなんて知識がない私。
それは、いつも通りに悠真と同じ時を刻むのが当たり前なのだとばかり思い込み勘違いをする私だった。