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振り向けば…
第5章 悔しいけど…
溝口先輩が微妙な顔を私に向けて来る。
「まぁ、一応、頑張って来るわ。」
チャラい言い方で手をヒラヒラとさせながら選手の集合場所へと溝口先輩が向かう。
溝口先輩のバタフライが好きだ。
踊っている時よりもカラオケをしている時よりも一番カッコいいと感じる姿はバタフライをしてる時。
なのに先輩はあまり乗り気じゃないと感じる。
あんなに綺麗でダイナミックに泳ぐのに…。
水飛沫を上げてキラキラと輝いてて、私には勿体ないくらいに遠い人になっちゃうけど、あの瞬間が一番好きな瞬間だと思うてた。
スタートの飛び込み台に溝口先輩が立つと観客席からは一段と大きな歓声が上がる。
「ぐっさん…、有名人やからな。」
クスクスとこんちゃん先輩が笑う。
誰よりも背が高く、色黒でカッコいい先輩は目立つ。
しかもパラパラとか踊っててチャラいから他の学校の人にも覚えられてる。
予選トップ通過の溝口先輩…。
もしかしたらインターハイに行けるかもしれない人。
その先輩の決勝戦。
私は目を凝らして先輩の泳ぎを必死に見る。
いつもと変わらない先輩の泳ぎ。
決して遅くはないと思う。
一応、こっちでも先輩のタイムをストップウォッチで計測はしてる。
ターンの時のタイムはいつもよりも速いくらいだったのに…。
じりじりと先輩はトップに引き離されていく。
ゴールした先輩は3位…。
入賞はしてもインターハイには届かない。
「今年も無理やな。」
こんちゃん先輩が苦笑いをする。
インターハイに行ける人は練習量も練習環境も違う人達だからと諦めてる先輩達…。
「悔しいけど…、しゃあないわ。」
戻って来た溝口先輩の言葉に寂しさしか感じない。
冷めた人達の冷めた部活。
今も私はそんな冷めた環境が自分には一番お似合いなのだろうと考えてる間に、早くも水泳部の夏が終わってもうた。