この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
振り向けば…
第53章 この家族…
やっと現場に着いた。
「監督さん!」
私の車に向かって走って来る人が見える。
「海斗さん…。」
「ミキサーは?」
「明日の段取りに振り替えました。」
「それは、ええ判断です。さっきから結構余震が来てますから。」
私と岩谷さんは車で走ってたから余震をほとんど感じなかった。
「そんなに揺れてます?」
「危険なほどじゃないですよ。型枠の方は全く問題がないのを確認済みです。」
私が遅れて現場に到着するだろうと予想済みだった海斗さん達職人さんは各自の持ち場の安全確認を既にやってくれてた。
「なら、今日はもう現場を閉めて帰って下さい。」
余震が続く以上はこのまま現場作業を無理に行うべきではない。
せめて電話回線のパンクが終わらなければ作業の続行は不可能だ。
「そうします。さっきも20分くらいだったけど停電しましたし。」
海斗さんの言葉に驚いた。
「停電もしたの?」
「すぐに復旧はしたけどね。」
いつもなら割りとふざけた会話をする。
悪戯好きの海斗さんはボクシングのジムで会長さんに悪戯を仕掛けたりする人だから、悪戯が成功した翌日は現場でその話を私に面白おかしく話してくれる。
そんなくだらない話すらする余裕もなく、現場を封鎖する準備に取り掛かる。
通常でも危険な現場で誰もが緊張を解くように軽口を叩くのに今日は本気で危険だと感じるから軽口は無しで手早く作業をする。
「気を付けて…。」
現場の誰もがそう言うて、それぞれの待つ人のところへと帰って行く。
私と岩谷さんはまだ帰れない。
1つ目の現場を出て再び車を走らせる。
道路のあちこちが渋滞する。
思うように次の現場に辿り着かない。