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振り向けば…
第53章 この家族…
「お願いします。」
その女性が私に深々と頭を下げた。
滞在は1時間ちょっと…。
この調子なら順調に問題の解決が出来る。
だけど、その程度で済まない家もある。
何件目かの家で老婆とその娘だと言う家主が住む家に向かった時の事…。
阪神大震災の際に崩れた外構をうちの会社が施工して新しくしたという外壁。
25年も前の施工方法…。
今回は崩れはしなかったもののひび割れや壁の傾きが確認出来る。
「いわゆる手抜き工事じゃないの?」
困った顔をする老婆はともかく勝ち誇った顔で私を責める口調を繰り返す娘の方に私は戸惑うしかない。
「手抜きはありません。手抜きであれば、とっくに倒壊してますから…。」
私は私に出来る説明を繰り返す。
単なる老朽化によるひび割れや傾きをうちの会社のせいにされても迷惑だ。
家主は当然、外構工事に保証や保険がない事を承知の上で自分に有利な条件を求めてるとしか思えない。
「どうかしら?一級建築士に査定して貰えば、手抜きかどうかがすぐにわかるって聞いたわ。」
強気の発言を繰り返す娘。
「もう古いんだから…、そんな査定はしなくても…。」
老婆が泣きそうな顔で娘を止める。
「お母さんは黙ってて、騙されて事故でも起きたら全部、うちの責任にされるんだから…。」
責任回避を娘が口にする。
私は私が出来る仕事をしなければならない。
その為に私がわざわざ外構工事の安全確認の担当を任された。
「一級建築士の資格なら私も持ってます。因みに外構工事に必要な資格は一級土木ですが、その資格も私は所持した上で会社から派遣されています。他の建築士に査定を依頼するのはご自由ですが結果は同じ報告書が2通になるだけです。」
うちの会社に落ち度はないと言える資格所持者の立場が必要だから私はこの仕事をする。
私の身分証明書を確認した娘が黙り、私は老婆と話をする。
崩れる寸前である外構である以上は今すぐに外構工事の発注が必要である。
会社に電話を入れて営業に来て貰う必要がある。
思い通りにならず膨れっ面の娘とひたすら私に頭を下げる老婆を残して冷たい態度のまま私は次の現場に向かしか出来なかった。