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姦譎の華
第4章 4
 幹部は年長者面をして、仕事人としての教訓やら、社会の理とやらについて解説をしていた。話題を引き出すのは専ら愛紗実の役目だった。多英はただ相槌を打ったり、当たり障りのないコメントを差し入れる程度、あとはグラスが開けば別の銘柄を勧めたり、おしぼりで幹部の前を拭いていただけだ。

「──奥原様、本日は誠にありがとうございました」

 幹部に向けてあらためて一礼をすると、

「いやいや、途中でちょっと口が滑ったかもしれないが、ちゃんと忘れといてくれよ?」

 「しまらないオッサン」の表情をしながらも、垂れた瞼の奥だけは意を通じさせんとギラつかせる。競争を勝ち抜いて今の地位にあるのは伊達ではない。

 幹部との会話には、流通サービス・関連事業者に対する規制改革に関する話題も含まれていた。まだ立案前段階の話だが、動向次第では自社にとってアメにもムチにもなりうる。

 だからこそ、日ごろ繋いできたK省へのパイプを利用して、今日のこの場をセッティングしたのだった。

 もっとも、どんな形を取ろうが、敏光と幹部が会ったという事実は変わらない。誰かに咎められた時、いやいや偶然ですし密室ではないですし部下もいましたよ、と言い返そうが、百パーセント釈明し切れるわけではない。無知なフリをして、通販がどうのという話からうまく水を向ける愛紗実へ、不分明かつ遠回しに話しただけだとしても、彼女も、話を聞いていた自分も、敏光ほどではないが利害関係者だ。

 しかし、百パーセントの非違かというと、そう言い切れるわけでもなかった。

 特に幹部クラスの場合は、万が一誰かに責められたとしても、疑惑が疑惑の域を出ないように場を誂えることが何よりも重要だった。下手に隠そうとして露見してしまうくらいなら、むしろこちらの方が望ましい。苦手な愛紗実を組み入れたのも、彼女のキャラにはうってつけであることに加え、三人と二人に分かれることができる人数に配慮した結果だ。
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