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旧家のしきたり
第2章 嫁試し
「お待たせしました」
母が広間に入ってきた。緑色の着物を着ている。母が蔵森家の当主として、ここぞという時に好んで身に着ける色だ。母親としてではなく、当主として僕たちと会うという意思表示ということだろう。
母は僕たちの前に座ると、涼しげな眼を美穂に向け、
「優斗の母でございます。優斗が大変お世話になっております」
丁寧に頭を下げた。美穂も背筋を伸ばすと畳に指をつき、
「上山美穂と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
母に負けないくらい深々と頭を下げた。
二人の挨拶が終わると、母は顔を僕のほうに向けた。
「優斗、元気そうでなによりです」
「母さんも」
久しぶりに会う母は、まったく変わっていなかった。美しく、威厳に満ちている。
「東京に行ったきり帰って来ないので、心配していたんですよ」
「申し訳ありませんでした」
母にはすでに手紙で今回の帰省の目的は伝えてある。僕は、佳子さんが運んでくれたお茶を一口啜ると、早速本題を切り出した。
「今日は母さんに相談があってきました。僕は美穂と結婚したいと考えています。どうか僕たちの結婚を許してください」
僕は美穂と一緒に頭を下げた。そのままの姿勢で僕は、結婚後は蔵森家に戻り、母と一緒に家のために働きたいと思っていることも話した。
「二人とも顔を御上げなさい」
母に言われ、僕はそっと顔を上げた。恐る恐る母の顔を見る……その表情は硬かった。
「美穂さん、あなたのような素敵なお嬢さんが優斗を選んでくれたことは、優斗の母として本当にうれしく思います。優斗、あなたが家に帰ってくれるというのも心から嬉しいです。でも二人の結婚を許すことはできません」
それが母の答えだった。
母が広間に入ってきた。緑色の着物を着ている。母が蔵森家の当主として、ここぞという時に好んで身に着ける色だ。母親としてではなく、当主として僕たちと会うという意思表示ということだろう。
母は僕たちの前に座ると、涼しげな眼を美穂に向け、
「優斗の母でございます。優斗が大変お世話になっております」
丁寧に頭を下げた。美穂も背筋を伸ばすと畳に指をつき、
「上山美穂と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
母に負けないくらい深々と頭を下げた。
二人の挨拶が終わると、母は顔を僕のほうに向けた。
「優斗、元気そうでなによりです」
「母さんも」
久しぶりに会う母は、まったく変わっていなかった。美しく、威厳に満ちている。
「東京に行ったきり帰って来ないので、心配していたんですよ」
「申し訳ありませんでした」
母にはすでに手紙で今回の帰省の目的は伝えてある。僕は、佳子さんが運んでくれたお茶を一口啜ると、早速本題を切り出した。
「今日は母さんに相談があってきました。僕は美穂と結婚したいと考えています。どうか僕たちの結婚を許してください」
僕は美穂と一緒に頭を下げた。そのままの姿勢で僕は、結婚後は蔵森家に戻り、母と一緒に家のために働きたいと思っていることも話した。
「二人とも顔を御上げなさい」
母に言われ、僕はそっと顔を上げた。恐る恐る母の顔を見る……その表情は硬かった。
「美穂さん、あなたのような素敵なお嬢さんが優斗を選んでくれたことは、優斗の母として本当にうれしく思います。優斗、あなたが家に帰ってくれるというのも心から嬉しいです。でも二人の結婚を許すことはできません」
それが母の答えだった。