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第1章 大きさの問題

「あ、お嬢様！？……お帰りなさいま……せ！？」

　ローゼルは玄関を開けてくれた家令に物も言わずに、まっすぐ自室に戻りました。
　そしてものすごい音で扉を開閉すると、寝台に飛び込んで突っ伏しました。

（……何なの、何なの何なのあの猿っ！！）

　サクナの屋敷からの帰りの道中、ローゼルの頭の中は、その事で一杯でした。サクナが屋敷に不在だったので、クロウとスグリ姫に家に帰ると告げて何やら言われたように思うのですが、呆然としていたためにはっきり憶えておりません。

（猿の癖にっ……ビスカスの癖にっ、好きな女が居る、ですって……！？）

　先程告げられた想像もしなかった事を思い出しながら、ローゼルはギリギリと奥歯を噛み締めました。
　
　ビスカスは、ローゼルが物心付いたときには、もう傍付きの一人でした。もともとはローゼルの母の次姉の嫁ぎ先の遠縁の子どもでしたが、訳有ってローゼルの母に引き取られたのです。三人兄弟の末っ子で唯一人の女児であり、兄二人には味噌っかす扱いされる事が多かったローゼルは、ビスカスを兄の様に慕って――と言うよりも、家来の様に従えて、大きくなっていきました。

　そんな訳でこの館に引き取られて以来、常にローゼルに振り回される人生を歩んで来たビスカスですが、二年程、館を離れて居た時期があります。ローゼルの母が亡くなった後、男の身で成長したローゼルの傍付きになるには護衛の仕事に就く位しか方法が無いと言われた為、館を離れて修業に出たのです。
しかし、帰って来てからは、また同じようにか、それ以前よりもっと酷く、ローゼルに振り回される様になりました。その頃のローゼルはさすがに年頃の娘になっておりましたので、以前の様に抱き付いたり一緒に寝たり風呂の手伝いをさせたりする様な事は無くなっていましたが、何かと言うと呼び付けたり相談したり愚痴を言ったりと、護衛兼使用人兼兄兼母兼ペットの様な、散々な扱いで有りました。

（ずっと一緒に居て、お前の事で知らない事なんか無いって思ってたのに……ずっと傍に居て、死ぬんだとしても私の為に命を使うって、誓った癖にっ……）

　ローゼルには、ビスカスが自分のことを嫌ってはいない事は、分かっていました。そうでなければこんなに長く我が儘を聞いてくれる訳は有りません。