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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
やや緊張しながら箸を取り上げると、篤子や道子からひっきりなしにおばんざいの鉢が回ってくる。
「笙子さん、この釘煮、ご飯に乗せて食べとおみ。出来たてで美味しいよ」
「笙子さん、このお揚げさんと水菜の炊いたん、食べとおみ。美味しい豆腐屋さんお揚げさんやねん」
「…は、はい。いただきます!」
必死で箸を動かす笙子に、岩倉が笑いかける。
「無理に召し上らなくて、いいですよ」
「大丈夫です。美味しいです」
笙子は一ノ瀬の家では両親だけに囲まれて、静かに育った。
大切にする余り、両親は笙子に対してやや過保護なきらいがあった。
友達も両親が選んでいたところがあった。
…生家のことはあまり覚えていない。
家族も…ぼんやりとした記憶しかなかった。
それはまるで、霧の向こうの風景のようだった。
だから、岩倉家のこんなにも賑やかな食卓は新鮮で、楽しかった。
…それに…。
すぐそばに…温かな体温が感じられる距離に岩倉がいる…。
笙子はそれが何より幸せだった。
「…私、嬉しいです。千紘さんのご家族に受け入れていただけて…。幸せです」
岩倉は目を細める。
「良かった。そう言っていただけて。
…僕の家はこの通り大勢の人間が朝から晩まで喧しくて忙しないから…笙子さんに驚かれるんじゃないかと思っていたんです」
笙子は首を振った。
「私…一ノ瀬の両親しか身寄りがいないでしょう?
だから一気に家族が増えて嬉しいです」
「…笙子さん…」
見つめ合う二人に、一堂が箸を止め興味津々の眼差しを向ける。
岩倉は咳払いをし、話題を変えた。
「…環はどうしたのかな?まだ寝ているのですか?」
篤子が形の良い眉を顰めた。
「ほんまや。あの子、まあた朝餉食べん気かいね?
ちょっと、ミツ。環を呼んできてくれへん?」
「はい!ご寮さん!」
ミツが元気に飛び出そうとした矢先…。
物憂げな声とともに、若い男が気怠げに座敷に現れた。
「起きてるよ。…でも、朝ごはんはいらない。
珈琲ちょうだい、ミツ」
「あかんあかん。若い子が朝餉食べんでどうする気やねん。
ミツ、環のお膳持ってきよし」
環と呼ばれた青年は、あからさまにむっとした表情を、その綺麗に整った貌に浮かべ、不貞腐れたように座った。
岩倉が笙子に紹介する。
「笙子さん。
こちらは伽倻子さんの一人息子の環です。
訳あって今、うちで預かっているのです」
「笙子さん、この釘煮、ご飯に乗せて食べとおみ。出来たてで美味しいよ」
「笙子さん、このお揚げさんと水菜の炊いたん、食べとおみ。美味しい豆腐屋さんお揚げさんやねん」
「…は、はい。いただきます!」
必死で箸を動かす笙子に、岩倉が笑いかける。
「無理に召し上らなくて、いいですよ」
「大丈夫です。美味しいです」
笙子は一ノ瀬の家では両親だけに囲まれて、静かに育った。
大切にする余り、両親は笙子に対してやや過保護なきらいがあった。
友達も両親が選んでいたところがあった。
…生家のことはあまり覚えていない。
家族も…ぼんやりとした記憶しかなかった。
それはまるで、霧の向こうの風景のようだった。
だから、岩倉家のこんなにも賑やかな食卓は新鮮で、楽しかった。
…それに…。
すぐそばに…温かな体温が感じられる距離に岩倉がいる…。
笙子はそれが何より幸せだった。
「…私、嬉しいです。千紘さんのご家族に受け入れていただけて…。幸せです」
岩倉は目を細める。
「良かった。そう言っていただけて。
…僕の家はこの通り大勢の人間が朝から晩まで喧しくて忙しないから…笙子さんに驚かれるんじゃないかと思っていたんです」
笙子は首を振った。
「私…一ノ瀬の両親しか身寄りがいないでしょう?
だから一気に家族が増えて嬉しいです」
「…笙子さん…」
見つめ合う二人に、一堂が箸を止め興味津々の眼差しを向ける。
岩倉は咳払いをし、話題を変えた。
「…環はどうしたのかな?まだ寝ているのですか?」
篤子が形の良い眉を顰めた。
「ほんまや。あの子、まあた朝餉食べん気かいね?
ちょっと、ミツ。環を呼んできてくれへん?」
「はい!ご寮さん!」
ミツが元気に飛び出そうとした矢先…。
物憂げな声とともに、若い男が気怠げに座敷に現れた。
「起きてるよ。…でも、朝ごはんはいらない。
珈琲ちょうだい、ミツ」
「あかんあかん。若い子が朝餉食べんでどうする気やねん。
ミツ、環のお膳持ってきよし」
環と呼ばれた青年は、あからさまにむっとした表情を、その綺麗に整った貌に浮かべ、不貞腐れたように座った。
岩倉が笙子に紹介する。
「笙子さん。
こちらは伽倻子さんの一人息子の環です。
訳あって今、うちで預かっているのです」