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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
篤子がさっさと廊下を行くのを見送りながら、岩倉は笙子を見つめた。
「…笙子さん。僕はこれから何があろうと、貴女を愛し続けます。貴女を一生、お守りいたします」
…笙子にはまだ超えなくてはならない過去の出来事がある。
生き別れの兄の記憶…。
笙子は亡くなったと思い込んでいるが、兄は生きているのだ。
しかも、彼は陰惨な事件の酷い被害を受けていた…。

…その兄のことを思い出した時に、彼女の中で何が起こるのか…。
それは岩倉ですら予測不可能なことだった。

しかし、岩倉は覚悟を決めていた。
例え記憶が戻り、笙子に変化が起きたとしても、その彼女をまるごと愛し続けることを…。

笙子は、未だに茨の森の奥深く…夢に微睡む麗しき眠り姫だ…。
本当の笙子は未だ眠り続けたままなのだ。
謎に満ちた美しく愛おしい私の姫君…。

「愛していますわ。千紘さん。
…これから何があろうとも…貴方だけを…」
煌めきを放つ美しい黒い瞳が、岩倉を見つめる。

…そう、何があろうと私は貴女を離さない…。
私は貴女に、狂おしいほどに囚われているのだから…。

岩倉は穏やかに微笑う。
「さあ、笙子さん。行きましょう」
差し伸べられた手を、笙子は幸せそうな笑顔で握りしめた。

二人が通り過ぎたあとには、春の女神の吐息のような温かな風と共に、庭の枝垂れ桜の花弁が雪のように舞い踊るのだった。


〜la fin〜

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