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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
京都市内の大学病院まで出勤する岩倉を見送るために、玄関までの長い廊下を二人で歩く。
春物の柔らかな色合いのスーツを着て、ソフト帽を被った岩倉は長身と身体つきの美しさと相まって西洋人のように洗練されている。
その涼やかな後ろ姿を見ながら…このひとに昨夜はあんなにも甘やかな口づけを与えられたのかと思うと、恥ずかしさから胸が苦しくなる。
「…環は十六歳です」
「お若いのですね…」
繊細に整った顔立ちをしているために、年上に見えたのだ。
「東京の星南学院に通っていたのですが、校内でトラブルを起こしたらしく停学になり、それから少々荒れましてね。
伽倻子さんが嵐山に連れて来たんです。
頭を冷やすようにと…。
預かってもう半年になりますが、相変わらず気難し屋で口数も少ないので、手を焼きます。
…まあ、思春期特有の反抗心でしょうが…」
「…ええ」
「根は優しい良い子なのです。笙子さんにご迷惑をおかけすることはないかと思いますが、何かあったら遠慮なさらずに私に仰ってください」
岩倉の思いやりに微笑む。
「大丈夫ですわ。
私、環さんとお友達になれるように努力いたします」
そんな笙子を愛しみの篭った眼差しで見つめる。
「…本当は、従兄弟とはいえ誰にも貴女のそばには寄せ付けたくないのですがね…」
身を屈めて、笙子の顎を引き寄せる。
慌てて瞼を閉じた笙子の唇に、愛おしさと愛情のみが詰まった優しいキスが落とされた。
「…なるべく早く市内に手頃な家を探します。
それまでこの嵐山の田舎で我慢していてください」
「…あの…千紘さんの今のお住まいは?」
「大学のそばの教員住宅にあります。
…けれどそこは独身者用ですし、狭くて古いですからね」
笙子は微笑んだ。
「私はこちらで構いません。賑やかなのは楽しいです」
岩倉が不意に艶めいた色の眼差しで微笑い、笙子の耳元で囁いた。
「…ここだと、こんなキスもできませんよ…」
「…あ…っ…」
肩を抱き込まれ、柔らかな唇を大胆に奪われる。
まだ青い果実を愉しむように男は唇を押し開き、薄い舌先を絡め取った。
「…んっ…」
笙子の甘やかな吐息ごと奪い、そっと離す。
睫毛が触れる距離で愛おしげに囁いた。
「…この続きは、今夜に…」
紅く染まった頬を見られたくなくて、笙子は俯きながら頷いた。
春物の柔らかな色合いのスーツを着て、ソフト帽を被った岩倉は長身と身体つきの美しさと相まって西洋人のように洗練されている。
その涼やかな後ろ姿を見ながら…このひとに昨夜はあんなにも甘やかな口づけを与えられたのかと思うと、恥ずかしさから胸が苦しくなる。
「…環は十六歳です」
「お若いのですね…」
繊細に整った顔立ちをしているために、年上に見えたのだ。
「東京の星南学院に通っていたのですが、校内でトラブルを起こしたらしく停学になり、それから少々荒れましてね。
伽倻子さんが嵐山に連れて来たんです。
頭を冷やすようにと…。
預かってもう半年になりますが、相変わらず気難し屋で口数も少ないので、手を焼きます。
…まあ、思春期特有の反抗心でしょうが…」
「…ええ」
「根は優しい良い子なのです。笙子さんにご迷惑をおかけすることはないかと思いますが、何かあったら遠慮なさらずに私に仰ってください」
岩倉の思いやりに微笑む。
「大丈夫ですわ。
私、環さんとお友達になれるように努力いたします」
そんな笙子を愛しみの篭った眼差しで見つめる。
「…本当は、従兄弟とはいえ誰にも貴女のそばには寄せ付けたくないのですがね…」
身を屈めて、笙子の顎を引き寄せる。
慌てて瞼を閉じた笙子の唇に、愛おしさと愛情のみが詰まった優しいキスが落とされた。
「…なるべく早く市内に手頃な家を探します。
それまでこの嵐山の田舎で我慢していてください」
「…あの…千紘さんの今のお住まいは?」
「大学のそばの教員住宅にあります。
…けれどそこは独身者用ですし、狭くて古いですからね」
笙子は微笑んだ。
「私はこちらで構いません。賑やかなのは楽しいです」
岩倉が不意に艶めいた色の眼差しで微笑い、笙子の耳元で囁いた。
「…ここだと、こんなキスもできませんよ…」
「…あ…っ…」
肩を抱き込まれ、柔らかな唇を大胆に奪われる。
まだ青い果実を愉しむように男は唇を押し開き、薄い舌先を絡め取った。
「…んっ…」
笙子の甘やかな吐息ごと奪い、そっと離す。
睫毛が触れる距離で愛おしげに囁いた。
「…この続きは、今夜に…」
紅く染まった頬を見られたくなくて、笙子は俯きながら頷いた。