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セイドレイ【完結】
第12章 価値
登校日から数日が経過したとある日の深夜。
地下室にあるテーブルでは、新堂と亜美が向かい合っていた。
「──やぁ。久々の学校はどうだったかね?」
「はい…。と、とくに問題なく……」
「そうか。まぁ学業の方は引き続きがんばってくれたまえ。雅彦は…あれでも一応、君を医学部にやるつもりがあるらしいからねぇ」
「そう…ですか」
「これから君は、ある意味自分の学費を自分で稼ぐことにもなるんだよ?立派なことじゃあないか。胸を張っていい」
新堂が煙草に火をつける。
立ちのぼる副流煙をぼんやりと眺めながら、亜美はこの男に対してひとつだけ不思議に思うことがあった。
この男──新堂だけは、未だに手を出してこない。
それどころか、亜美のカラダに指一本触れることさえしないのだ。
「フゥ…──なに、悪いようにはせんよ。だから君も、これから会うことになる "お客様 "を大事にしなさい。これもなにかのご縁だ。いつか君が困ったとき、助けになってくれるかもしれないからねぇ」
お客様というのは、売春ビジネスの会員のことである。
「──で、話がそれたが。いよいよ明日、"最初の客" が来る」
「はい…」
「ほう?意外と冷静だねぇ。たいしたもんだ」
すると新堂は、床に置いていたビジネスバッグの中から数枚の資料を取り出し、テーブルの上に置いた。
「最初の客はこいつだ。目を通しておきなさい」
その資料は、会員のプロフィールらしきものだった。
(こんなもの見たって…なんの意味があるの…?)
亜美はそう思いつつも、資料に目をやった。
荒垣 太蔵(あらがき たいぞう)。54歳。
亜美が暮らす市の市議会議員。当選4回。
19年前に初当選をしてから、現在で四期目となる。
とくに教育関連に力を入れているようで、その経歴には数々の委員会や団体の肩書きが並んでいる。
そのほか、妻、高一の娘、中一の息子がいると書かれていた。
(私と同い年の娘がいるの…?)
亜美はゾッとし、思わず目を丸くする。
「なにか気になることはあるか?こうやって人の経歴を見てみるのもなかなか面白いだろう」
「…娘さん、私と同い年なんですね」
亜美がそう言うと、新堂はニヤりと笑みを浮かべた。
「荒垣千佳──」
「え…?」
「──ククッ、聞き覚えはないか?うちの学園の生徒だ」