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セイドレイ【完結】
第12章 価値

数時間後──。
眠っていた亜美が目を覚ますと、すでに地下室に雅彦の姿はなかった。
寝ずに仕事に行ったのだろうか。

亜美のカラダには、大小無数のアザができていた。
それらはすべて雅彦が口で吸った、うっ血した痕だ。
亜美を自分のモノだと主張するべく、そのしるしをつけたのだろうか。

亜美はその痕跡を、そっと指で押さえてみる。

「っ…────」

患部に鈍い痛みが広がり、昨夜の雅彦との情事が思い出される。


(あの感じは一体…なんだったの…?)


カラダが軋む。
たしかに昨夜の雅彦とのセックスは激しかったのだが──それはいつもの乱暴さとはまた違った趣があった。

亜美は、陵辱される日々の中で常に「自分の変化」は感じていたが、「相手の変化」を感じたのはこれが初めてである。

では、昨夜の雅彦はいつもとなにが違っていたのか。
というよりも、ほかの男との違いはなんなのか、とするべきか──。


ふとテーブルに目をやると、新堂が置いていった千円札が目に入った。
バイトもしたことない亜美が、初めて自分で稼いだ金、ということになる。

この千円の裏に、一体どれだけの金が流れているのだろう。
そう思うと亜美は、次に自分の価値というものについて、あらためて考えてみたくなった。

男にとって自分は、それほどの価値があるものなのだろうか。
ほかの女と、なにがそんなに違うのだろうか、と。

胸が大きいことが男を欲情させうるということは、さすがの亜美もなんとなく分かってきた。
だが、胸の大きな女など星の数ほどいるだろう。

では、15歳という年齢か。
新堂が言っていたことを察するに、世の中には幼い女にしか性的魅力を感じない男がいるのだろう。

となると、来年はどうだろうか。
再来年、そのまた来年…と、亜美が大人の女性になったとき、果たして彼らは今と同じように、亜美を欲するであろうか。

『君次第だよ』

と──、新堂は言った。
その言葉の真意は測りかねるが、いずれ終わる日が来る、ということでもある。

そのとき、一体自分にはなにが残っているのだろう──。

千円札を見つめながら、亜美はぼんやり、そんなことを考えていた。


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