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セイドレイ【完結】
第12章 価値
「あ、亜美っっ!!」
すると次の瞬間、雅彦は亜美を抱き寄せ、貪るように濃厚なキスを交わす。
「ンンッ!んぅ……お、お父…さま────」
亜美も自ずと、雅彦の首へ腕を回した。
亜美は自分でも信じられなかった。
このところ、本山やさっきの荒垣など、違う男に立て続けに抱かれていたからだろうか。
雅彦の白衣に染みた消毒液の匂いや首の回りから漂う体臭。
そしてそのカラダから伝わる体温が、不思議と亜美に「落ち着く」という感覚をもたらしていた。
特にここ最近、雅彦は今夜のことを含めた準備に追われていたせいで亜美を抱く時間がなく、ふたりがカラダを重ねるのは数日ぶりだったのだ。
(お父様の…においがする…──)
たくましい雅彦の腕に抱かれ、亜美は全身の力が抜けていく。
すべての厄災はこの男のせいであるのに。
それなのに、どうしてだろう。
今はこの男の腕の中にいると、なにもかもを忘れられる気がした。
こうして怠惰に身を任せることに、心地良さに似たものを覚えたのだ。
雅彦もまた、複雑な感情を抱いていた。
すべては自分が企て、実行したことだ。
実の息子をも巻き込み、亜美の人生を奪った。
そこに後悔などあるはずがない。
あってはならないのだ。
では、今この胸を締めつけるような感情は一体なんなのだろう、と──。
これこそが、雅彦の望んでいたことではなかったのか。
現に今の亜美は抵抗しないばかりか、雅彦を必要としているかのような素振りを見せた。
本来なら殺したいほど憎んでいるはずの相手に、自ら腕を伸ばして抱かれているのだ。
たとえそれが、抑圧のもとに形成された歪んだ感情であっても。
これから幾多の男が亜美を汚そうとも、亜美の処女を奪ったのはほかならぬ雅彦なのだ。
そのことが、雅彦の征服欲を満たしていくはずだった。
はずだったのに────。
ふたりはそれから、明け方まで抱き合った。
それはいつになく言葉少なに、しかしいつになく熱っぽく、しっぽりと湿度を帯び、互いを貪るような──そんなセックスだった。