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セイドレイ【完結】
第13章 独りぼっち
斯くして──思わぬ出会いからスマホの隠し場所を得た亜美。
しかし、亜美にとってトメとの出会いはそれ以上の価値があったということは言うまでもない。
朝と帰り、その登下校の時間だけは、今後なにがなんでも守り抜かなければならない──亜美はそう心に誓った。
自分を待っていてくれる人がいる。
それは陵辱するためでもなく、性奴隷にするためでもない。
純粋に、亜美という存在を待っていてくれる人がいる──。
そんな人がたった1人居るだけで、こうも世界の見え方が変わるものかと、亜美は人の持つ力というものを再確認する。
こころなしか、いつもは陰鬱としていた帰り道の景色がすこしだけ違って見える気がした。
(パパとママは見守ってくれている。きっと近くにいる。そして私はまだ生きなきゃいけない。トメさんがそれを教えてくれた──)
そしてこのところ、亜美は自分が考えて行動したことが結果となって帰ってくることの重要性について実感し始めていた。
あの日、自殺未遂直後の地下室で慎二に色目を使ったことをはじめ、本山を脅してスマホを手に入れたこと、そして、今回のトメとの出会い──。
つらい状況に変わりはないものの、それでも「変化」があるということは、生きるうえでとても重要なことではないかと亜美は感じていたのだ。
いつもの帰宅時間を大幅に過ぎてしまった。
そろそろ、目覚めた慎二が亜美がいないことに腹を立てているかもしれない。
そして今日は金曜日だ。
おそらく健一も帰って来るだろう。
客の予約は入っていないようだったが、亜美の長い週末がまた始まるのだ。
だとしても────。
(大丈夫…。私は…大丈夫────)
亜美はそう自分に言い聞かせながら、いつもよりもやや力強い足取りで家路へと急いだ。
今日も武田クリニックの看板は、そんな亜美を見下ろしているかのようだった。