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セイドレイ【完結】
第13章 独りぼっち
「──和泉式部って、たしか百人一首にも出てくる…」
「そうじゃ。よーく知ってるねぇ。亜美ちゃんは頭もいいんじゃの~」
「いえいえっ…ぜんぜん。ちなみにこれには、どんな意味が…?」
「ああ。この詠はな?若くで娘を亡くした和泉式部が、そのかなしみを詠んだものなんじゃよ。──子どもと一緒に死ねたらよかったのに。自分だけがこの世に生き残ってしまった──そう嘆いている詠じゃ。私も、長男が死んだときは心からそう思ってねぇ。昔から、親より子が先に死ぬっちゅうことはそんだけ悲しいことなんじゃろう」
「そんな意味が……」
「じゃからな…亜美ちゃん。あんたは今つらいと思うが、きっと天国のお父さんとお母さんは近くで見守ってくれとる。ご両親とてつらかろうな。もうすこし、あんたのそばに居てやりたかったじゃろう。じゃが…親は誰でも、子に先に死なれることよりつらいことはあらん。それだけでも、あんたが生きている意味はあるんじゃ」
「トメ…さんっ…────」
泣きやんだばかりなのに、亜美の瞳はまた涙でにじむ。
トメが言ったその一言一言を噛み締めるように、亜美はうんうんと何度もうなずきながら、涙をぬぐった。
「──トメさん、私…ひとつお願いがあるんですけど」
亜美はそう言うと、スカートのポケットからスマホを取り出し、それをトメに差し出す。
「ん…?これはアレかい?電話かい?」
「そう、携帯電話です。ちょっと事情があって…家には置いておけなくて。もしトメさんさえよければ、この家で預かってほしくて…。図々しいお願いなのは分かっているんですが…」
「なんじゃ。そのくらいお安い御用じゃ…が、自分が使いたいとき、私が家におらんと困るんじゃないかい?」
「あー…。うーん…たしかに。そっか…」
「じゃあ、こうしないかい?」
そう言うと、トメは庭にある小屋を指差した。
「私が毎朝あの小屋の中に入れておくのはどうじゃろう。そんで夜になったらまた家に持って入って…どうせ充電もせにゃならんじゃろ?これか?ここにこの線をつないでおけばいいんじゃな?」
「で、でも…」
「そうすりゃ、私が家におらん日でも小屋から出して好きなように使やええ。なあに、遠慮しなくていいんじゃ。これが私の生きる意味じゃ。亜美ちゃんの力にならせておくれ?」
「トメ…さん。本当に…本当にありがとうございます──」