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セイドレイ【完結】
第14章 武田家の憂鬱
それから一夜明け、翌日。
亜美は雅彦から新しい客についての説明を受けていた。
今回、新堂は同席していない。
前回と同じように、テーブルには資料が並べられた。
違ったのは、その量だ。
ざっと10人は居るであろうそのひとつひとつの資料に、亜美は目を通していく。
「──ようやくここまでこぎつけた。来週からは約1日おきのペースで客の相手をしてもらう。いいな?」
「…はい」
特に感情を表に出すこともなく、淡々と資料を眺める亜美。
「あの…お父様」
「ん?どうした」
「私の…両親のことについてなんですけど」
雅彦の目付きが一瞬にして変わる。
「それが…どうした」
「ずっと聞きたかったんですが、昔は交流があったんですよね」
「………」
「でも私は、お父様のことを両親から聞いた記憶がありません。もしかして…なにかあったんでしょうか」
「…知ってどうする?」
「いえ…。ただちょっと気になって…」
「そうか──」
腕を組み、しばし考え込む雅彦。
「──いいだろう。お前の両親は、かつてうちの病院で不妊治療を受けていた」
「えっ…──」
「──だが、治療方針が合わなくて揉めてな。それで疎遠になった。…以上だ。ほかに理由はない」
「つ、つまり…私の出生に…お父様が関わっていたかもしれないということですか?」
亜美は、自分が不妊治療の末に授かった命だということを知っている。
「──その後のことは知らん。ただ、お前は生まれて、今こうしてここで暮らしている。そういう運命だ。余計なことは考えなくていい」
いつになく早めに話を切り上げようとする雅彦。
亜美はもっと聞きたいことがあったが、それ以上なにも言うことができない。
頭の中に、久々に両親の顔が浮かぶ。
それが久々だということにも──亜美は同時にショックを受けた。
決して忘れていたわけではないのだが、最近は両親の夢を見ることもなくなってしまった。
しかし、雅彦から語られた両親の過去の断片に触れ、亜美の中に一気に恋しさが込み上げてくる。
亜美は太ももの上で拳を握り、下を向いてうつむく。
その握り拳には、ポタポタと涙が滴っていた。
雅彦はなにも言わず、さめざめと泣く亜美をじっと見つめているだけだった──。