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セイドレイ【完結】
第18章 踏み絵
貴之は亜美に会えぬまま週末を迎えていた。
特にすることもなく、部屋でスマホをいじる。
中学時代は野球に明け暮れ、週末は練習と試合ばかりだった。
それが今や、こんなふうに暇を持て余している。
貴之が野球を辞めた理由。
実は、故障をしたというのは嘘だった。
本当の理由は──パニック障害である。
中学のころから、試合中に極度の緊張を覚えることがあった。
そのときは、それは性格的なものだろう──とあまり深く考えてはおらず、高校へは野球の推薦で進学した。
しかし高校で野球をやるようになってから、部活中に過呼吸やめまいなどの発作が頻発するようになる。
最初は本人も隠していたが、次第に発作はひどくなり、ついに予期不安に怯えるようになった。
やがてドクターストップがかかり、野球を辞めざるを得なくなったのだ。
貴之は目標を失った。
野球をやるために進学した高校で、野球ができなくなるという不運。
精神的な落ち込みも激しく、不登校気味になっていたのを見かねた両親が環境を変えてみることを提案。
そして、光明学園に転校してきたのである。
光明学園は年3回の転入試験を実施しているが、亜美のような特例をはじめ、ここらの地域では積極的に転入を受け入れているのが特色だった。
また、部活動も運動部文化部ともに盛んであるため、野球以外のなにかを見つけてほしい、という両親の願いもあった。
幸い、野球と離れてから発作に見舞われることはほぼなくなったが、未だに興味のあることを見つけられずにいる貴之。
そんな事情を抱えて転校してきた初日、亜美と出会った。
ほぼ一目惚れだった。
まさか、本当に亜美と交際することになろうとは──貴之は、自分は最高に運がいい、と思う一方で、実感も沸かなかった。
公園でキスをして以来、亜美の顔を拝むことすらできていないし、スマホで連絡を取ることもできない。
本当にあれは夢だったのではないかと、ふとしたときに思うのだ。
スマホをいじっていると、メッセージアプリの通知が鳴る。
すっかり仲良くなったクラスメイトの男子たちとのグループトークの通知だった。
『おつー。てかやばい動画見つけたんだけど』
『なに?』
『エロ系??』
数人が次々に返信をする。
貴之はあまり興味はなかったが、とりあえず
『どんな動画?』
と返信してみることにした。