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セイドレイ【完結】
第20章 朔
しかし、雅彦は急になぜ、ビジネスを打ち切りたいなどと言い出したのか。
仮にそのとおりに現在の会員を以てサービスを終了したとして、一番困るのはほかでもなく雅彦自身である。
ただでさえ厳しい病院の経営状態。
それを建て直す意味でも、こんな危険なビジネスに手を染めたはず。
そのうえ、新堂の初期投資分を回収できなければ、その債務も雅彦が負うことになるのだ。
そもそも水面下では、雅彦と新堂──この2人の思想はとっくに決裂していたといえる。
雅彦はあるときから新堂のやり方が気に入らず、また新堂はそれに気づいていながら、わざと煽るようなやり方をしてきた。
貴之という、本来無関係である少年を巻き込んだこともそのひとつであろう。
しかしなによりの決め手は、あの夜以降、雅彦は亜美に対して新たな感情が生まれてしまった。
雅彦はそれをひた隠しているつもりだったが──新堂はその変化を見逃さなかった。
かつての盟友が、袂を分かつようである。
しかし今やなんの権限を持たない雅彦には、新堂が推し進めようとすることを止めることができない。
そしてそれは現実として、これから亜美に降りかかることになるのである──。
新堂と会話を終えた雅彦は、1人寝室に置かれた机の椅子に腰掛けていた。
おもむろに机の引き出しを開けると、その奥に仕舞われた一通の封筒を手に取った。
すでに封が切られたその封筒から手紙を取り出し、眉間に皺を寄せて一読する。
そのとき、「コンコン」と部屋のドアをノックする音がした。
雅彦は慌てて手紙を引き出しの奥に押し込む。
「──入りなさい」
「失礼…します」
ドアの隙間からひょっこり顔を出したのは、衣服を一切身に付けていない全裸の亜美だった。
「さぁ…こっちへ来なさい」
あれから亜美は、客が来た日もそうでない日も、眠るときは雅彦の寝室へ訪れるようになっていた。
そのままセックスをするときもあれば、ただ寄り添って眠るだけのときもあった。
雅彦の勃起不全も日によって不安定だったこともあるが、たとえセックスをしなくても、ふたり1日の終わりを同じベッドで迎えるようになっていたのだ。
「お父様…────」
亜美は雅彦の腕の中でそうつぶやき、今夜も眠りにつく。
雅彦は亜美の小さな寝息を聞きながら、艶やかな黒髪をそっと撫でたのだった。