この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第22章 種
「──先生、すいません」
授業中の教室で、亜美が唐突に挙手をする。
「ん?どうした?高崎…」
数学の担任が不思議そうな顔で返事をすると、クラス中の視線が一斉に亜美に集まった。
「ちょっと…気分が悪くて…。保健室に行きたいんですが…」
「だ、大丈夫か…?たしかに、少し顔色が悪そうにも見えるが…1人で行けるか?誰か付き添ってやったほうが──」
「い…いえ、1人で…大丈夫です」
「そうか。じゃあ──あ、いかん。そういえば今日は養護教諭の先生がお休みだったな…。勝手に保健室には入れない決まりになってるから、まず職員室に行って、本山先生に事情を説明しなさい」
「あ…はい…分かりました」
「保健室で休むか、早退するかは本山先生に判断してもらって…多分、この時間は職員室にいると思うから。本当に1人で大丈夫か?」
「大丈夫…です。すいません、行ってきます」
亜美は、クラスメイトの視線を遮るようにして、うつむきながら教室を出る。
心配そうに見つめていた貴之の視線に、目もくれず──。
「──ふう」
教室から出た亜美は、どこかホッと胸を撫で下ろした様子である。
そして、教師に言われたように職員室へと向かった。
光明学園では、養護教諭が不在時は保健室の鍵は閉められており、利用したい場合は本山が対応することになっているのだ。
「──失礼します」
亜美は職員室の扉を開けると、本山の姿を探す。
そのジャージ姿の大柄な背中を確認すると、亜美は声をかけた。
「本山先生…今お時間よろしいでしょうか」
「お…高崎か。どうした、授業中に…」
「実は…体調が優れなくて。少し保健室で休みたいんですが、今日は保健の先生がいらっしゃらないと聞いたので…」
「そうか…。熱はありそうか?」
「ええ…少し…」
「──分かった。今から保健室の鍵を開けるから、ちょっと待っててくれ。それとも早退するか?」
「いえ…。少し休めば大丈夫かと…すいません」
「よし分かった。とりあえず行くぞ──」
本山はキーボックスから保健室の鍵を取り出し、亜美を連れて職員室を出た。