この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第22章 種
数分が経過し、徐々に貴之の呼吸が落ち着いてくる。
「──亜美、ありがと。びっくりさせてごめんな」
「少し治まった…?大丈夫…?」
「うん…。もう大丈夫だから」
「ごめん…。私が変なこと言ったからだよね…」
「いや…亜美は悪くないよ。むしろ、亜美のほうが辛かったよな…。俺、ちょっと動揺しちゃって。さっきのことについてなんだけどさ…ちょっと…待っててもらっていいかな?」
「え…?」
「俺、ちゃんと考えるから…」
「あっ、実は…あの話には続きがあって…」
「…いいんだ。もう分かったから。俺、もしかしたら亜美を幸せにしてやれないかもしれないけど、でも…ちゃんと考えるからさ」
「ち、違うのっ…!水野くん、あのねっ…」
なにかを言いかけた亜美を、貴之がぎゅっと抱き締める。
「ごめんな…亜美。ごめん…ほんとにごめんっ──」
亜美を抱き締める貴之のカラダが、小刻みに震えていた。
そしてその瞳は、大粒の涙で溢れていた──。
その後、ふたりはいつもの場所で別れ、それぞれ家路についた。
亜美は無言で家に上がり、そのまま部屋のベッドに倒れ込む。
(水野くん…。結局病気なのか聞けなかった──)
薬を常備しているということは、持病なのだろう。
しかしそのことを貴之は一切、亜美に言おうとしなかった。
そして亜美も聞くことができなかった。
亜美はブレザーのポケットから、とあるものを取り出した。
それは、「ICレコーダー」だった。
録音件数の表示は、1件。
(水野くん、私のせいで…ごめんなさい。やっぱりこれは──)
そのとき、廊下から重量感のある足音が聞こえてくる。
慎二がやってくることを察知した亜美は、咄嗟にそのICレコーダーをベッドの下に隠した。
「── "妊婦JK" はお帰りかなぁ~?」
薄気味悪い笑みを浮かべ、慎二がズカズカと亜美の部屋に入ってくる。
「ごっ、ご主人様…。ちょうど今、帰ってきたところです…」
「ふぅ~ん。ま、いいけど。それより、今なんか隠したでしょ?」
「い、いや…なにもっ──」
「──はいはい。とぼけなくていいから。"ソレ" 、俺が預かるように新堂のおっさんから言われてんだよね~。だから早く渡して」
「……。分かり…ました」
亜美はなにかを諦めたような様子で、隠したそのICレコーダーを慎二に渡した。