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セイドレイ【完結】
第22章 種
「──ほう?実におもしろいことになったねぇ」
その夜、地下のモニター室。
慎二からICレコーダーを受け取り、録音データを確認した新堂は満足気な笑みを浮かべていた。
「なかなか骨のある男じゃあないか。今どきめずらしい。そう思わかんか?雅彦よ」
「──ああ。そうだな」
例の輪姦イベントのあと、新堂の目論見どおり亜美の妊娠が発覚した。
このことは、現時点ではまだ会員には伏せられている。
亜美の妊娠が分かると、新堂は「あること」を亜美に命じた。
それは、貴之に『腹の子の父親は貴之である』という "嘘" をつけ──というもの。
それを亜美が実行できたか確認するため、ICレコーダーを持たせて貴之との会話をわざわざ録音させたのだ。
実際のところ、子の父親が誰なのかは不明である。
しかしそのすべての責任を貴之1人になすりつける──そんな、いかにも新堂が考えそうな悪趣味な "ひまつぶし" だった。
これにより、貴之がどのような反応を示すか。
新堂としては、亜美と貴之の仲を引き裂くことが目的であった。
亜美にとって、貴之にこんな嘘をつくのは相当に心苦しいことであろう。
そして対する貴之も、16歳という年齢で彼女を妊娠させてしまったという事実に困惑するであろう。
その貴之が、一体どんな言葉を亜美に浴びせるのかを新堂は想像してゾクゾクしていた。
『本当に俺の子なの?』
『ピル飲んでるって言ってたじゃないか』
『堕ろしてほしい』
『別れよう』
──大方そんなところだろうか。
その言葉のどれもが、しっかりと亜美を傷つけるであろう。
そしてこの話はそもそもが嘘である。
亜美に嘘をつかせ、その嘘によって貴之の本音を炙り出すという、亜美にとっては二重の、いやそれ以上の苦しみを味わうことになる。
さらに新堂は「別れ話」を切り出すようにも命じていた。
亜美があのとき言いそびれていたことは、それだったのだ。
亜美と貴之が出会い、偶然にも惹かれあっていることに目をつけた新堂は、ハナからこのシナリオを思い描いていた。
このために、今までわざとふたりの交際を容認してきたのだ。
あとは、亜美が妊娠するだけ──。
ところが、貴之は新堂が想定していたどの言葉も言わなかった。
多少取り乱したものの、自分が父親であることを否定せず「ちゃんと考える」という決断をしたのである。