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セイドレイ【完結】
第4章 野性
「…家まで距離があるが、我慢してくれな」
「あっ…はい…。いえ…あの…今回は本当に…ありがとうございます」
武田家の屋敷へと向かう車内。
亜美は緊張した面持ちで、後部座席から窓の外を見つめている。
雅彦はその姿をチラチラとルームミラーで確認しながら、亜美の表情が葬儀のときよりほんの少し人間味を取り戻しているように感じていた。
本来、それは喜ぶべきことなのだろうが──、雅彦は若干の物足りなさを覚えてしまう。
「(やはり…この女には、悲痛に歪む顔がよく似合う──)」
雅彦が亜美の姿を見るのは葬儀の日以来だったが、こうしてまじまじと見てみると、品のある顔立ちに似合わずカラダの発育は相当にワガママであることに気づく。
まだ少女には違いないが、男を悦ばすには十分過ぎるほどの機能を備えた亜美のカラダ。
雅彦の頭の中で、危険な妄想がさらに暴走していた。
そしてそれはもう間もなく、妄想から現実のものとなるはずなのだ。
この日のため、雅彦は忙しい合間を縫って、亜美を迎え入れる体制を万全に整えてきた。
友人が理事を勤める学園にも口利きをし、すでに通うばかりの状態だ。
あとは、どのタイミングで "ソレ" を実行するか──。
本能のままに従うということは、一歩間違えればすべてを失うリスクを孕んでいる。
だから、利用できるものはとことん利用する。
たとえそれが「悲しみ」であろうと、つけ込むだけつけ込めばいいのだから。
事故で両親を一度に亡くすという絶望を知った亜美が、さらなる絶望にさらされたとき、一体どんな表情を見せるのか──。
雅彦はそのことを考えるだけで、股間が熱く滾るのを感じていた。
高速を使い、1時間弱──。
「…さぁ着いた。今日からここが亜美ちゃんの家だ」
雅彦にそう言われた亜美は、車を降りて屋敷を見上げる。
(…外見はちょっと古いけどすごく大きな家…。となりに病院もある。やっぱり本当だったんだ)
「お、おじゃまします…」
「…はは。自分の家に上がるのに、お邪魔しますはないだろう?」
「あっ…そ、そうですね…。じゃあ、ただいま…」
「おかえり、亜美──」
(今日からここが私の、帰る場所────)
しかしその屋敷は、一歩足を踏み入れたが最後。
二度と光が射すことのない籠城であることを、このときの亜美はまだ知らないでいた。